Filtering by Tag: Steidl

【2018/5/23更新】Saul Leiter / Early Color

Added on by Yusuke Nakajima.

2017年にBunkamura ザ・ミュージアム(東京・渋谷)、2018年には伊丹市立美術館(兵庫)で、日本では初となる大規模な回顧展が開催された、ニューヨークを拠点に活動した写真家のSaul Leiter(ソール・ライター)。

2006年初版の伝説的な写真集[Early Color]、待望の第8版が再版されました。

本書は、ライターのキャリアにおいて初期にあたる1950年代に撮影されたカラー写真の作品群が初めて出版物として世に送り出されたという点においても、意義深い一冊です。
1953年、Museum of Modern Art(ニューヨーク近代美術館、MoMA)で写真部門のディレクターを務めていたEdward Steichen(エドワード・スタイケン)が、ライターのカラー作品のうちいくつかを展示にまつわる企画展示をしていたものの、その後彼の作品が広く知れ渡ることはありませんでした。 ライターは1946年に画家を志してニューヨークへと拠点を移しましたが、美術家のRichard Pousette-Dart(リチャード・パウセット・ダート)と深く関わるにつれて、まもなく写真の創造的な可能性を認めるようになります。彼はその後も絵を描き続け、Philip Guston(フィリップ・ガストン)やWillem de Kooning(ウィレム・デ・クーニング)らと展覧会をするに至るも、カメラはこのニューヨークという大都会での日常を記録するために常に存在する手段であり続けました。

同時代の作家とは比べることが出来ない彼の独特な作品は、叙情的で説得力のある色彩によって、捉えどころがなく、往々にして抽象的なコンポジションが印象的です。

Saul Leiter / Early Color
Steidl
176 pages
Hardback / Clothbound
200 x 200 mm
English
ISBN: 978-3-86521-139-2
初版 2006年 / 第8版 2018年
6,600円+税

Dayanita Singh / Museum Bhavan

Added on by Yusuke Nakajima.

ダヤニータ・シンは1961年ニューデリー生まれの写真家。ボンベイのセックスワーカーや児童労働、貧困など、インドの社会問題、富裕層やミドル・クラスをテーマとした、静かだが強いメッセージ性を孕むような作品群を発表しています。
これまでにベネツィア・ビエンナーレやシドニー・ビエンナーレなどの国際写真展、サーペンタインギャラリー(ロンドン)やモダン・アート美術館(フランクフルト)といった世界各国での展覧会開催を通じて、着実にキャリアを築き上げてきました。

彼女にとって出版物は、展覧会と同様に重要な表現手段です。これまでSteidl社とのコラボレーションで刊行されてきた写真集は、写真を発表し鑑賞するための実験場となっています。2017年に刊行された本書[Museum Bhavan]は、半ばその取り組みの集大成といっても過言ではないようです。

展覧会[Museum Bhavan]の会場は、折りたたみ式の木造建造物に写真プリントを設置して構成されました。かねてより鑑賞者との自由な交流を望むシンは、仮に読者自身が望めば展覧会の展示空間を再現できるようにとの計らいから、9つの作品シリーズを1冊ずつの「ミュージアム」に見立てて、アコーディオンのような蛇腹式の製本を採用しました。それぞれのブックは、例えば視覚的なストーリー、一方では具体的なストーリーといったように、彼女の直感のもとに選別され、章ごとにグループ分けされています。言うなれば、このボックスセットは展覧会のミニチュア版なのです。表現者である彼女がブックデザインの段階から関わることで、全体を通じてより説得力のある作品として表出されています。

Dayanita Singh / Museum Bhavan
Steidl
298 pages, 241 images
Softcover in slipcase
90 x 137 mm
10 books/exhibitions in a unique box
English
ISBN: 978-3-95829-161-4
12,000円+税

William Eggleston / The Democratic Forest. Selected Works

Added on by Yusuke Nakajima.

しばしば「カラー写真の父」と謳われるWilliam Eggleston(ウィリアム・エグルストン、1939年 アメリカ・テネシー州メンフィス生まれ)は、約60年のキャリアを通じて、その土地特有の主題と、色・形・構図にあらわれる天賦の洗練された知見とを巧みに結びつけ、非凡なスタイルを確立してきました。

エグルストンの80年代に撮影された「The Democratic Forest」シリーズの集大成として、2015年にSteidlより10冊組のボックスセットが出版されました。
(参考:http://post-books.info/new-arrivals/2015/11/19

彼の熱狂的なファンも垂涎するほどの豪華な仕様の本セットは、確かに内容の充実度は折り紙付きなのですが、いかんせんフルボリュームのためにおのずと価格帯も高くなってしまうことがネックでした。

「より多くのひとに向けてこの圧倒的な大作の世界に触れられる機会が設けられないか?」と思っていた矢先、2016年秋に本シリーズから68点の優れた作品を抜粋した選書が出版されました。

本書をめくると、一点一点がマスターピースといっても過言ではないほど、気迫のある作品が連なっています。撮影当時である80年代アメリカならではの空気感がひしひしと伝わってきます。

これまでのSteidlの出版における歩みをみていくと、単一の写真(集)シリーズを基盤として製作し、ゆくゆくはオフカットや未公開作品を余すことなく収録するフルボリュームセットを製作するという「拡張型」の流れを多く見受けます。しかし、エグルストンの「The Democratic Forest」シリーズに関しては、フルボリュームの魅力をぎゅっと凝縮して一冊に編纂し直すという「収縮型」のプロセスが踏まれています。

書籍編集の方法は実に多様で、編集の段階で定められたベクトルの向きによって、書籍の内容だけでなくその一冊がもつ意義さえも変化していくのです。

William Eggleston / The Democratic Forest. Selected Works
Steidl
120 pages, 68 images
Hardback / Clothbound
29.8 x 31.1 cm
English
ISBN 978-3-95829-256-7
10/2016

7,200円+税

Tomasz Gudzowaty / Closer

Added on by Yusuke Nakajima.

来週6/25(土)から7/1(金)に開催されるTomasz Gudzowarty(トマシュ・グゾバティ、1971年-:ワルシャワ生まれ)の出版記念写真展に関連して、彼の他の作品シリーズにも目を向けてみたいと思います。

グソバティの名が知れ渡った契機は、1999年まで遡ります。ワールド・プレス・フォト・アワードの自然部門で、彼の作品が受賞したことがきっかけでした。その作品は、2頭のチーターの子どもたちがかろうじて初めての捕食をする瞬間を捉えています。2頭がシカを挟んで対峙している緊迫した状況なのですが、獰猛な荒っぽさは鳴りを潜め、自然が時折みせる奇跡的な一瞬を捉えた美しさが印象深いです。

この受賞を機に、彼は野生生物のドキュメンタリー写真家としての地位を確立しました。サハラ以南のアフリカを広範囲にわたって旅して回り、ゾウ・ライオン・チーター・ウー(ウシカモシカ)・シマウマといった野生動物たちを幾千ものイメージを撮り納めてきました。また、南極のウェッデル海に生息する皇帝ペンギンの生態を遠隔で記録することにも成功しています。

本書「CLOSER」では、毎年長距離移動をするウーの大群が生息するタンザニアや、繁殖期を迎えたペンギンの群生地が舞台になっています。黒い背景のモノクロームの世界のなかで野生の世界で繰り広げられる筋書きのないドラマがダイナミックに広がっています。

グゾバティが目の当たりにした自然のスペクタクルを巧みに捉えた野生動物の写真は、技術的・美的にみても洗練されています。彼の情熱や主題に対する深い知識を後ろ盾として、抜け目のない鋭い観察眼によって、全般的な様式と細やかなディテールの両方を捉えているからです。彼は鑑賞者に、自然が内包する働きや美しさをもたらします。

Tomasz Gudzowaty / Closer
Steidl
256 pages, 250 images
Tritone
Softcover in slipcase
290 x 370 mm
English
ISBN: 978-3-95829-044-0
04/2016

14,800円+税
Sorry, SOLD OUT

Roni Horn / the selected gifts

Added on by Yusuke Nakajima.

概念が主軸となるコンセプチュアル・アートを表現するうえで肝になるのは、演出力ではないでしょうか。どのようにアウトプットするかで、作品自体の訴求力が歴然と変わってきます。

現代美術作家のRoni Horn(ロニ・ホーン、1955年 アメリカ・ニューヨーク生まれ)の、特定の対象物に対して一心不乱に目を向けていく真摯さには脱帽です。表現媒体となる写真のトーンには、彼女らしい視点が端的に表れています。執念じみた情感とは無縁で、図鑑に収録された資料のような淡々とした表現へと昇華するスタンスは、まるで冷徹な研究者のよう。その一定した調子に安心感すら覚えます。

そんなホーンが、またしても新境地を開きました。今回彼女が着目したのは、自身が受け取ったギフトです。

贈る側が抱くホーンの印象を可視化する一方で、選んだひと自体の価値観がにじみ出ています。ホーンが自分の意思で選び取ったものならばどこかしら一貫性を見出せるでしょうが、「ホーンが贈られたもの」という点で辛うじて結びつく一連のアイテムは見るからにテイストにばらつきがあります。

脈絡のない構成要素を並列したときに統一感を保つには、写真の撮り方が肝心です。今回の場合は、とりわけ背景の色がカギとなります。わずかに柔和な乳白色により、年月を経てきた深みのあるエッセンスを加味しながら、同時に潔さをも醸し出しています。同じ白でも漂白されたようなパキっとした発色だったら、きっと違う印象になっていたことでしょう。

実体を伴わない形態だからこそ枠にとらわれない自由な発想で表現できる一方で、どのようにしてとっかかりを掴んでもらうかを思案するのは骨折れる過程だろうことは想像に難くありません。けれど、コンセプトと作品の表現とがうまく合致した暁には、その醍醐味をストレートに伝えることがかなうのです。

Roni Horn / the selected gifts
Steidl
120 pages
Hardback / Clothbound
280 x 305 mm
English
ISBN: 978-3-95829-162-1
03/2016
7,100円+税

Provoke - Between Protest and Performance

Added on by Yusuke Nakajima.

近年、第二次世界大戦後の日本の芸術写真が世界的にも注目される機会が増えています。なかでも見逃せないのは、1960年代末から70年代初頭の動向でしょう。激動の時代を駆け抜けた先人たちの生き様は、写真家ならば写真を撮る行為、批評家ならば言葉を用いた評論の執筆というように、彼らの職能を通じてありありと残されています。

1968年に日本で創刊された写真同人誌「Provoke(プロヴォーク)」は、通巻わずか3号しか刊行されていないにもかかわらず、第二次世界大戦後の世界的な写真史の文脈のなかでも際立った偉業だとみなされています。そればかりか、もっとも議論を喚起した代表例です。

プロヴォークは、批評家の多木浩二(1928年生まれ)、詩人の岡田隆彦(1939年東京生まれ)、写真家・写真批評家の中平卓馬(1938年東京生まれ)、写真家の高梨豊(1935年東京生まれ)により立ち上げられ、2号からは写真家の森山大道(1938年)が参加しました。
顔ぶれからもわかるように、批評の対象は写真という領域にとどまらず、芸術や文化全般、政治・思想の領域までに及びます。サブタイトルの「思想のための挑発的資料」という言葉が、彼らのスタンスを端的に象徴しています。
中平や森山の代名詞ともいえる「アレ・ブレ・ボケ」と称される粒子の粗い不鮮明なモノクロ写真は、政治や革命の色が濃厚だった当時の世相を鮮烈に映し出すことに一役買っています。

本書は、雑誌プロヴォークやその創作者たちにまつわる初めての巡回展(*1)にあわせて刊行されたカタログです。この歴史的な文脈に主眼を置きながら、「PROTEST」「PROVOKE」「PERFORMANCE」の三部構成により、プロヴォークと同時代の周辺の動きをみていきます。

「PROTEST」を直訳すれば、「抵抗」「抗議」に相当します。
過激化する学生運動。沖縄に敷設された基地をめぐる闘争。成田空港建設をめぐる三里塚闘争。毒薬の動物実験。冷戦体制下で頻発する戦争。この時代には、当局の思惑に対して怒り心頭した市民たちが、デモや抗議という行動で訴えるという構造が度々生まれました。
臨場感のある一連の写真は、いち当事者として抗争のなかに飛び込み、あるいは敢えて一歩引いた立ち位置から傍観に徹しながら、彼らの魂の叫びを聞き漏らすまいとシャッターを刻んだ写真家たちの勇敢な行動の賜物です。

「PERFORMANCE」というのは、身体を伴った表現を指します。
写真家・荒木経惟の独特な世界観や、アーティストの高松次郎・赤瀬川原平・中西夏之が中心となったハイレッド・センターの先駆性は、型破りなアプローチについ目が行きがちですが、ただ目立とうと行動したわけではありませんでした。社会構造に内在する矛盾や問題点に真っ向から向き合い、彼らなりの意思表示を通じて声高に訴えていたのです。
そうやってみていくと、先に話のあがった闘争に参加した市民たちとも重なる原動力が背中を押していたことを察します。表層だけでなく時代背景とともにみてみると、彼らの斬新なスタンスにも妙に納得がいきます。

彼らと同世代のひとたちにとっては生々しい記憶の断片であり、それ以降に生まれた世代にとっては数十年前の日本で起きた出来事を知るきっかけをもたらします。

Provoke - Between Protest and Performance
Steidl
Edited by Diane Dufour and Matthew Witkovsky
680 pages, 600 images
Four-color process
Softcover
190 x 250 mm
English
ISBN: 978-3-95829-100-3
02/2016
10,100円+税
SOLD OUT

 

※注釈
*1 巡回展
2016/1/29-5/18 アルベルティーナ(オーストリア・ウィーン)
2016/5/28-8/28 ヴィンタートゥール写真美術館(スイス・ヴィンタートゥール)
2016/9/14-12/11 ル・バル(フランス・パリ)
2017/1/28-5/7 シカゴ美術館(アメリカ・シカゴ)

Robert Adams / The New West

Added on by Yusuke Nakajima.

以前にも紹介しましたが、「ニュー・トポグラフィックス(=ニュートポ)」という写真史のターニングポイントともなったムーブメントがあります。今回はその立役者のひとり、Robert Adams(ロバート・アダムス、1937年 アメリカ・ニュージャージー州生まれ)の名作「The New West」が復刊されたのでご紹介します。

他のニュートポの写真家の作品と同様にアダムスの作品でも、「決定的瞬間」のようなドラマチックな展開が起こっているわけではなく、見栄えのする建築物や景観が被写体になっているわけでもありません。時折人影がみえたとしても、決して躍動感のあるようすは見受けられないのが常です。
心を揺さぶられるような要素が全く削がれたあたかも資料のような写真を目の前にした鑑賞者は、にわかに特別何かしらの感情が芽生えることはないかもしれませんが、次第にじわじわと感極まっていくような不思議な魅力を携えています。

たとえ自然の風景だろうと都市景観だろうと、彼が見据えているものは単なるランドスケープではありません。まるで時が止まってしまったかのような一連の写真は、根底に「人間と自然の境界線」という共通したテーマがあるのです。

第二次世界大戦後、アメリカには大量生産・消費の時代がやってきました。これまで更地だった郊外には巨大なショッピングモールが林立し、瞬く間にその景色が変わっていきます。経済成長にも自然礼賛にも傾倒することなく、極めて中立的なスタンスで、めまぐるしい変化の真っ只中にあるアメリカの姿を見つめているのです。

本作「The New West」の舞台は、アメリカ・コロラド州にあるロッキー山脈のお膝元に位置する街。ここは、彼がアメリカ南西部における郊外の典型とみなして記録をしていた土地です。高速道路、トラクト・ハウス(*1)、低層の社屋やサイン。こうした商業的なアイコンがもつ俗っぽい印象からは乖離され、山や野原といった自然物のごとく、この土地の地理的形状を成すいち構成要素として写しだされています。

1974年初版(Colorado Associated University Press刊)の本書は、今やウォーカー・エヴァンスの[American Photographs]やロバート・フランクの[The Americans]といった不朽の名作に匹敵するクラシックなタイトルとして広く認知され、アメリカの文化や社会を反映した写真作品における指標ともいえる名著の仲間入りを果たしたと称えられてきました。
その功績を後世に残そうと、Wealther KönigやApertureといった錚々たる出版社から再版が繰り返されてきましたが、この度初版40周年を記念して、ドイツのSteidl社より新たに再版されました。

彼とも長年にわたるパートナーシップを結んでいるSteidlですから、ただ初版を復刻させるだけでは済まされません。印刷業から出発し、現在も社内の機械を使って印刷している彼らならではの特技を活かして、不朽の名作を現代に甦らせました。
通常、モノクロ写真集というのはブラックとグレーの2色刷りで印刷されることがほとんどなのですが、本書は3色刷り印刷をしています。微細なコントラストをつけることにより、ただ淡いだけではなく確かな存在感のある光が特徴の、アダムスの作品らしい深みのある風合いがより豊かに表現できます。ちなみに、Steidlから出版されているアダムスのタイトルはほぼ、この3色刷り印刷を採用しています。2色刷り仕様の写真集と見比べてみると、柔らかな光のコントラストやアメリカ西部ならではのゆるやかな空気感が手に取るように伝わってきます。


Robert Adams / The New West
Steidl
136 pages
Tritone
Hardback / Clothbound
248 x 225 mm
English
ISBN: 978-3-86930-900-2
2016
5,900円+税

 

※注釈
*1 トラクトハウス
規格化された団地開発型戸建住宅のこと。日本の建売住宅と通じるものがある。

 

Double Elephant

Added on by Yusuke Nakajima.

1973年から74年にかけて、写真家のリー・フリードランダー(*1)とジャーナリストのバートン・ウルフ(*2)は、ニューヨークを拠点にした出版レーベルのDouble Elephant Press(ダブル・エレファント・プレス)で4つのアイコニックなポートフォリオを編集しました。

この企画にはゲイリー・ウィノグランド(*3)、マニュエル・アルヴァレス・ブラボー(*4)、ウォーカー・エバンス(*5)、そしてリー・フリンドランダー自身が名を連ねています。彼らはまさに、20世紀においてもっとも影響力のあったといっても過言でないでしょう。
それぞれ15点の写真作品を収録した4つの限定版のポートフォリオは彼らの厳格なヴィジョンを見事に顕わしていて、ウォーカー・エヴァンスの「奇妙に斬新で心地がよく、さりげなく印象的で、意表を突いて大胆である」ということばをまさに体現しています。

現状では、ダブル・エレファント・プレスについての史料はあまり多くは残っていないのですが、本書には当事者であるウルフが寄稿したテキスト(※英文のみ)が収録されており、これを読み進めることでダブル・エレファント・プレスの真髄に触れることができます。そのなかから特に興味深い内容をピックアップしてみましょう。

1960年代末から70年代初頭、ウルフはスイスのジュネーヴに拠点を置きながら、ロンドンでロナルド・B.キタイ(*6)やデイヴィッド・ホックニー(*7)といった画家たちと交流していました。そのため、彼らの写真プリントの制作過程を見る機会にも恵まれていたそうです。
そのキタイからフリードランダーを紹介され、ウルフとフリードランダーは協働で写真のポートフォリオシリーズを制作する話が持ち上がります。(ちなみにウルフはきっかけとなったことが何だったのかということはあまりよく憶えていないようです)
その構想とは、その写真家がそれぞれお気に入りの写真を15点ほど選定し、それにサインをして、エディションをナンバリングをした100冊のポートフォリオ(最終版はエディション75+アーティストプルーフ15)を制作するというもの。彼らは可能な限り最高の写真ポートフォリオを作りたいという共通の想いを抱き、その実現に向けて邁進します。
フリードランダーは写真家としてその完成度にも妥協することはありません。ポートフォリオは少なくとも500年は長持ちさせることが求められます。彼はその版の1,350点をそれぞれプリントしてサインをしたうえ、マットを特別な紙で手製し、外側にレタリングを付した箱をあつらえ、アーカイブとして高い品質を保つことを望みました。

由来ともなった「ダブル・エレファント」は、実はこんなエピソードが残されています。
ある日、ウルフがキタイのプリンターを観察していたとき、彼がオーダーフォームの上部に『Double Elephant Throughout』と書いているのを見つけました。『double elephant』とは、古くは本のサイズや製本のテクニックを描写するときに使われていたフレーズでしたが、数百年という月日が流れ、次第に最高級の紙やインク、素材に対して使われるようになったそうです。

フリードランダーとも旧知の仲であったウィノグランド。
小さなライカを首にさげているものの、写真を撮るまでずっとジャケットのなかに隠し持っているような茶目っ気のあるブラボー。
20世紀を代表する写真家として不動の地位を築いたエヴァンス。
それぞれの作風からは個性が滲みでていますが、それを装飾性を極力削ぎ落とした端正なブックデザインのポートフォリオブックとして編纂することで、全体としての統一感が生まれました。

本書は写真史における試金石となるであろう、ユニークなコラボレーションプロジェクトに対する敬意にあふれています。

 

-----

Double Elephant
Lee Friedlander, Walker Evans, Garry Winogrand, Manuel Alvarez Bravo
Edited by Thomas Zander
192 + 32 textbook pages
Clothbound in slipcase
295 x 355 mm
Number of items: 5
English
ISBN 978-3-86930-743-5
11/2015

-----

※略歴一覧
*1 Lee Friedlander(リー・フリードランダー)
1934年 アメリカ・ワシントン生まれ。
本書には1960-70年代に撮影された、独特な視点から切り取った作品群を収録。

*2 Burt Wolf(バートン・ウルフ)
1938年 アメリカ・ニューヨーク生まれ。

*3 Garry Winogrand(ゲイリー・ウィノグランド)
1928年 ニューヨーク生まれ。
本書には1950-70年代に撮影された、人々の自然体な姿や表情をさりげなく捉えた作品群を収録

*4 Manuel Alvarez Bravo(マニュエル・アルヴァレス・ブラボー)
1902年 メキシコシティ生まれ。
本書には1920年代末-30年代末、60-70年代と2つの時代で撮影された作品群を収録。
被写体の切り取り方がユニーク。

*5 Walker Evans(ウォーカー・エヴァンス)
1903年 アメリカ・ミズーリ州生まれ。
本書には1930年代に撮影された、街並を写したランドスケープから人物を捉えたポートレイトまで幅広い作品群を収録。

*6 Ron Kitaj(ロナルド・B.キタイ)
1932年 アメリカ・オハイオ生まれ。

*7 David Hockney(デイヴィッド・ホックニー)
1937年 イギリス・ブラッドフォード生まれ。

William Eggleston / The Democratic Forest

Added on by Yusuke Nakajima.

1970年代に「ニューカラー」を牽引し、現代写真史の歴史の一幕を担ったWilliam Eggleston(ウィリアム・エグルストン、1939年 アメリカ・テネシー州メンフィス生まれ)。息の長いムーブメントの先導者はいまだ衰えを知らず、近年だと2011年出版の写真集[Chromes]、翌2012年出版の[Los Alamos Revisited]によって彼のキャリアに対する再評価が推進されています。
その勢いは彼の最も意欲的なプロジェクト[The Democratic Forest]の出版によって、なお継続の一途を辿ることになりそうです。

本書のタイトルともなっている「democracy(デモクラシー=民主主義)」は、彼自身の民主主義的なヴィジョンが引き合いになっています。彼は何よりも気高いものとして、同様に複雑さや重要性を持ち合わす最もありふれた主題としてタイトルに冠することにしました。

10巻セットの本書に収録された1,000点以上の作品は、エグルストンが1980年代に撮影した約12,000点から厳選されたもの。収録作品のプリントが転写されたクロス装丁の書籍が、紺地にレモンイエローの文字が印字されたスリーブケースに納められた佇まいは壮麗です。

視覚的な序章としての役目を託された第1巻にはルイジアナの作品群が並び、その後もエグルストンの旅路で撮り納めた景色が繰り広げられます。彼にとって慣れ親しんだメンフィスやテネシーはもちろん、ダラス、ピッツバーグ、マイアミ、ボストン、ケンタッキーの牧草地、そして遥か遠くのベルリンの壁まで。編集の仕方もさまざまで、地名をそのまま拝借したものもあれば、例えば「The Interior」「The Surface」というように特定の着眼点をテーマにした巻もみられます。いよいよ最終巻では、鑑賞者を南部の小さな町、綿畑、かつてアメリカ南北戦争の戦場だったシロや第7代アメリカ大統領のAndrew Jackson(アンドリュー・ジャクソン、1829年生まれ)の自邸へと連れ戻します。

また、編集者のMark Holborn(マーク・ホルボーン)による書き下ろしの前書きや、女性作家のEudora Welty(ユードラ・ウェルティー、1909年 アメリカ生まれ)によるオリジナルエッセイの再版といったテキストもあわせて収録されています。

アメリカの美術史において先例のないエグルストンの写真を眺めていくと、往々にして叙事詩的小説を読み進めているかのような壮大な気持ちになります。特にその時代を生き抜いた人々にとってはきわめてありふれた日常的な光景、それを自身の感情を介入することなくヴィヴィッドな彩りで淡々と映し出していくおなじみの作風は健在です。
しかし、既に発表されている他の時代に撮影された作品群に比べると、冷戦終結を迎えた激動の80年代という時代を舞台にしているからなのか、ほのかに感傷的に訴えてくるような印象を受けます。おそらく、時代の空気感を的確に捉える視点と表現力に長けた写真家なのでしょう。表現者としてはもちろん、ひとりの人間として鋭い感覚を持ち合わせていることが伺えます。30余年の年月を超えてもなお色褪せることなく、2010年代を生きる私たちの芯の部分にもダイレクトに伝わってくるのです。

未発表の作品群のごく一部のお披露目の機会ともなった本書、その制作に向けた徹底した編集プロセスには3年以上の月日を要しました。「これだけの大規模な仕様でなければ、エグスルトンの成し遂げた功績を存分に表すことができないだろう」という信念に導かれ、ようやく完成しました。
エグルストンのファンならずとも必見のフルボリュームは、収録点数のみならずクオリティの面からしても見応え抜群です。

William Eggleston / The Democratic Forest
Steidl
1328 pages
Four-color process
Hardback / Clothbound in slipcase
315 x 320 mm
Number of items: 10
English
ISBN: 978-3-86930-792-3
11/2015

New Topographics

Added on by Yusuke Nakajima.

第二次世界大戦後、豊かな経済と比例するようにして土地開発が推進されました。人々の生活の舞台は都市部だけでは収まりきらず、どんどん郊外へと広がっていきます。自らの住処や活動拠点を確保するために雄大な自然が広がる野原や森林を伐採し、汎用性が高く整然とした、換言すれば没個性的な建物が雨後の筍のように林立していきました。

こうした社会的にみても大きな変貌の最中にあった1975年、現代美術史においてひとつのターニングポイントにもなった、非常に意義深い写真展が開催されました。

国際写真美術館(The International Museum of Photography)で開催された「New Topographics: Photographs of a Man-Altered Landscape(ニュー・トポグラフィクス: 人間によって変えられた風景の写真)」。
本展には、以下の錚々たる顔ぶれが参加しました。
□Robert Adams(ロバート・アダムス、1937年 アメリカ・ニュージャージー州生まれ)
□Lewis Baltz(ルイス・ボルツ、1945年 アメリカ・カリフォルニア州生まれ)
□Bernd & Hilla Becher(ベルント&ヒラ・ベッヒャー、ベルント:1931年ドイツ・ジーゲン生まれ、ヒラ:1934年 ドイツ・デュッセルドルフ生まれ)
□Joe Deal(ジョー・ディール、1947年 アメリカ・カンザス州生まれ)
□Frank Gohlke(フランク・ゴールケ、1942年 アメリカ生まれ)
□Nicholas Nixon(ニコラス・ニクソン、1947年 アメリカ・ミシガン州生まれ)
□John Schott(ジョン・スコット、1944年 アメリカ生まれ)
□Stephen Shore(ステファン・ショア、1947年 アメリカ・ニューヨーク州生まれ)
□Henry Wessel, Jr.(ヘンリー・ウェッセル・ジュニア、1942年 アメリカ・ニュージャージー州生まれ)

当初は「ニュー・トポグラフィクス」というキャッチフレーズこそ生まれていなかったものの、本展を契機としてこれらのアーティストの作品を特徴付けるための言葉として浸透していきます。

ここで出展された彼らの作品の共通点とは、もとあった自然を侵食して建設された人為的な建造物のある景色が広がっているということ。
ややもすると感傷的になったり、自然回帰を声高に訴えたくなるような衝動に駆られますが、不思議なことに彼らの写真からは情感といった類の温度感がまるで伝わってきません。
表題にもなっている「Topographic(トポグラフィック)」には「地勢学」という意味がありますが、まるで地勢学の関連資料のように、極めてニュートラルな視点から捉える姿勢を徹底しています。

また、(ショアの作品を除き)基本的には人けが全くないというのも特徴に挙げられるでしょう。
人間の手によって生み出された人工物が被写体となる情景に、そのつくり手である人間が欠落している。
この作り込んだようなシチュエーションによって、なんとも言い難い不穏な空気感が募ります。

先人であるAnsel Adams(アンセル・アダムス、1902年 アメリカ・カリフォルニア州生まれ)らが表現した、あるがままの自然の姿を映し出した既存の伝統的な写真のスタイルから脱却し、写真におけるコンセプチュアルなスタイルを確立することになりました。言うなれば、この段階でパラダイム・シフト(発想の転換)が起こったのです。
ほぼ同時期に、William Eggleston(ウィリアム・エグルストン、1939年 アメリカ・テネシー州生まれ)が代名詞ともなっている「ニュー・カラー」のムーブメントと相まって、晴れて写真が現代美術界の文脈のなかに登場するに至りました。

本書は、センター・フォー・クリエイティブ・フォトグラフィー、アリゾナ大学、ジョージ・イーストマン・国際写真映画博物館の共同企画により開催された、1975年の展覧会を踏襲する写真展「New Topographics」にあわせて出版されました。
本展は、アメリカ国内(ニューヨーク、ロサンゼルス、アリゾナ、サンフランシスコ)をはじめ、オーストリア、ドイツ、オランダ、スペインを巡回しました。

1975年の写真展から抜粋した作品はもちろん、展示風景や文脈上での対比を織り交ぜた新版となる本書は、作家ごとに章立てた編集や豊かなテキストに加え、本展の写真入りチェックリストと広範囲にわたる書誌目録とを兼ね備えた巻末のアーカイブ資料が収録され、ニュー・トポグラフィクスを理解するうえで外すことのできない完成度の高い一冊です。

New Topographics
Steidl
304 pages
Book / Hardcover
300 x 400 mm
English
ISBN 978-3-86521-827-8
08/2013
※Out of print

Andreas Gursky

Added on by Yusuke Nakajima.

Andreas Gursky(アンドレアス・グルスキー、1955年ライプツィヒ生まれ)は、現代美術界においてもっとも重要な写真家のひとり。その影響力は、彼の写真作品には史上最高額が値付けされているという事実が雄弁に物語っています。

彼の作品はなんといっても迫力のあるダイナミズムが魅力です。世界中を旅して廻った際に撮影された写真は、まるで彼の旅をトレースした想像上の地図のよう。
彼は絶えず現代生活や国際的な現実における強烈な問題に対して客観的かつ的確な眼差しを向けており、デジタルプロセスを経て巨大なフォーマットに落とし込むというアプローチが典型的な表現手法として確立されています。

例えば東京証券取引所での一幕、同じ形状の窓枠が整然と並ぶモンパルナスのモダニズム集合住宅、おびただしい量の商品がひしめくように並ぶ99セントショップ、平壌のマスゲームなど、現代を生きる私たちにも既視感のある情景を捉えていますが、それらを注意深く見ると、画面のすべてに隈なくピント(焦点)が合っていて、現実にはありえないような景色として映し出されているのです。
現実と虚構を浮遊するような不思議な感覚を呼び起こす彼の作品は、技術の面からしても視覚的にも美術の世界におけるマスターピースといっても過言ではないでしょう。

本書は、ドイツのバーデン=バーデンにあるMuseum Frieder Burdaで開催中の彼の個展にあわせて出版されました。本展はグルスキー本人と密接なコラボレーションにより発展したもので、これまでの彼のアイコニックな代表作のみならず最新作を盛り込み、鑑賞者に彼の魅力を再発見してもらえるような構成になっています。

大画面の作品群は、私たちの複雑な現実に対する明確な分析とともに、写真の素晴らしい楽しみ方をもたらします。また、展覧会のキュレーターによる国内外の新聞に掲載された記事を通じて、写真とテキストによる対話が試みられているのも興味深いです。

Andreas Gursky
Steidl
Edited by Udo Kittelmann
152 pages
Hardback
252 x 294 mm
German
ISBN 978-3-95829-045-7
10/2015

Jason Schmidt / Artists II

Added on by Yusuke Nakajima.

Jason Schmidt(ジェーソン・シュミット)は1969年ニューヨーク生まれの写真家。1991年にコロンビア大学で美術史の学位を取得し卒業しました。彼の作品はロサンゼルス現代美術館や、ニューヨークの現代美術画廊のダイチ・プロジェクツで展覧会が開催されるほか、ニューヨーク・タイムズ・マガジン、ヴァニティ・フェア、ハーパース・バザー、ザ・ニューヨーカー、Vマガジンなどという影響力のある媒体に繰り返し掲載されています。

「Artists II」は、今日においてもっとも重要なアーティストを追うシュミットの進行中の写真ドキュメンタリーシリーズの第2巻です。
カール・ラガーフェルドがディレクターを務めることで知られる、Steidl社内のいちレーベルである「Edition 7L」から、2007年に第1巻となる「Artists」が出版され、待望の続編となります。

本書には、John Baldessari(ジョン・バルデッサリ)、Ai Weiwei(アイ・ウェイウェイ)、 Glenn Ligon(グレン・リゴン)、Cindy Sherman(シンディ・シャーマン)など、166ものアーティストが登場します。
12年以上にわたり撮り収めてきた写真のなかには、若手から大御所、軌道に乗っている者、世界的に著名な人物から知るひとぞ知る気鋭まで、大いなる創造性を秘めたアーティストたちの顔ぶれが並びます。
それを追っていくと、彼なりにアートの世界に鋭い視線を向けてきたことがよく伝わってきます。


彼らのスタジオや制作環境にまつわる場所で撮影されたこれらの写真は、彼らがもっとも打ち解けた瞬間を切り取ることによって、まさに創作プロセスの実践者であることをよく示しています。
シュミット自身が表現者だからこそ、他のアーティストのごくプライベートな領域まで立ち入ることができたのでしょう。
彼の暗躍により、一般的に作品を通じて作家の内面を知る我々も、知られざる素顔を見ることができました。

また、ポートレイトに添えられたテキストも外すことのできない要素です。
時に被写体を文章という切り口から描写したり、詩的な要素や謎めいたアプローチを試みることで多角的に迫り、彼らの素性を明らかにしてきます。
ポートレイトとランドスケープの間ともいえるシチュエーションで捉えるシュミットのこの写真シリーズは、コンスタントに変化してゆくアートやアーティストの有様、そして現代美術の実践の場を包括的にまとめた形式として、非常に有益なものです。

Jason Schmidt / Artists II
Steidl
180 pages
Hardback / Clothbound
295 x 300 mm
English
ISBN: 978-3-86930-632-2
09/2015

Isamu Noguchi / A Sculptor’s World

Added on by Yusuke Nakajima.

多くのひとに支持されるものには、それ相応の理由があります。
アートブックや写真集に関して言えば、単に作品を収録するのではなく、例えば丁寧な編集により作品の世界観が伝わるように演出されている。興味深いテキストを収録している。ブックデザインや印刷・製本にこだわりが見える。などなど。
あらゆる側面からの細やかな計らいの積み重ねが功を奏して、結果として多くのひとに受け容れられ、時代の変化にも負けない名著となるのです。

なるべく広い範囲で息長く流通すればいいのですが、さまざまな事情により、止むを得ず絶版になってしまうことも多々あります。こうして入手困難になると、その作品集と対面できる機会すら奪われてしまうのは惜しいことです。

そこで注目されるのが、絶版本の復刊です。
写真史にその名を刻んだHenri Cartier-Bresson(アンリ・カルティエ=ブレッソン)の「The Decisive Moment(決定的瞬間)」やRobert Frank(ロバート・フランク)の代名詞とも言える「The Americans」の復刊を度々手がけてきたSteidlから、今夏もまたひとつ、素晴らしい名著が再び蘇りました。

本書は、もとは1968年初版(Harper & Row社、現・HarperCollins)の、彫刻家・Isamu Noguchi(イサム・ノグチ、1904年アメリカ・ロサンゼルス生まれ)の自伝です。
Steidlからは2004年に初めての再販として第2版が出版されていたものの、絶版になって久しい状態が続いていましたが、約10年の月日を経て、今回同社より待望の2度目の再販が実現しました。

イサム・ノグチは、20世紀でもっとも影響力のある彫刻家と言われています。
アイリッシュ・アメリカンの教師・編集者である詩人の父・野口米次郎と、作家である母のレオニー・ギルモアとの間に生まれ、日本で育ち13歳のときにアメリカへ留学のために戻りました。
1926年にはグッゲンハイム奨学金の初受給者に選ばれパリに渡り、彫刻家・Constantin Brancusi(コンスタンティン・ブランクーシ)のスタジオアシスタントとして6ヶ月間働きました。
彼は彫刻作品のみならず、ハーマンミラー社の家具や照明をデザインしたり、アメリカの舞踏家/振付師・Martha Graham(マーサ・グレアム)やバレエ振付師・George Balanchine(ジョージ・バランシン)の舞台美術、エストニア系アメリカ人建築家・Louis I. Kahn(ルイス・I・カーン)とのコラボレーションワークなどを手がけてきました。

ニューヨークのロング・アイランド・シティに彼の財団が運営するノグチ美術館があるほか、日本では香川・高松市牟礼町にアトリエを構えていた場所がイサムノグチ庭園美術館になっています。
また、ランドスケープ・デザインのダイナミックな実践の場として札幌のモエレ沼公園の設計を手がけることになったものの、着工後に心不全のため志半ばで他界、図らずも遺作となりました。同園は彼のマスタープランを踏襲し建設が進められ、2005年にグランドオープンしました。

ノグチに世界的な評価をもたらした芸術作品に関するもっとも包括的なステートメントは本書でも健在です。
また、終生の親友であったRichard Buckminster Fuller(リチャード・バックミンスター・フラー)によるオリジナルの序文はもちろん、本書の初版年にあたる1968年から彼が永眠した1988年の間に起こった重要なイベントを加えた新しい年表を収録しています。

テキストと図版で構成される本書は、この独創性の高いアーティストの生涯や作品への関心が高いひとや、一般的に彫刻に興味があるひとにとっては必読の一冊といえるでしょう。

 

参考文献
モエレ沼公園
イサムノグチ庭園美術館
ノグチ美術館(The Noguchi Museum)
 

Isamu Noguchi / A Sculptor’s World
Steidl
262 pages
Clothbound
237 x 255 mm
English
ISBN: 978-3-86930-915-6
07/2015

Ai Weiwei / Interlacing

Added on by Yusuke Nakajima.

Ai Weiwei (艾未未/アイ・ウェイウェイ、1958年中国・北京生まれ)は、世界的に著名な現代美術作家のひとり。非常に博識で、コンセプチュアルかつ社会批判的なスタンスをとるアーティストであり、衝突を生み出したり真実を形作ることに生涯を捧げています。
建築家・コンセプチュアルアーティスト・彫刻家・写真家・ブロガー・ツイッタラー・インタビューアーティスト・文化批評家としても活動する彼は、時事問題や社会問題におけるセンシティブなオブザーバーであり、日常にアートを、またアートを日常をもたらす偉大なる伝達者ないしネットワーカーとも言えるでしょう。
日本でも作品に触れる機会が多く、2009年に森美術館で開催された個展では46万人を動員し、2013年には映画「アイ・ウェイウェイは謝らない」が上映されました。

本書は、ウィンタードゥール写真美術館(スイス)からジュ・ド・ポーム国立美術館(パリ)へ巡回した、アイ・ウェイウェイの写真とビデオ作品における初めての大規模な展覧会にあわせて出版されました。

アイ・ウェイウェイはニューヨークを拠点にしていた頃からすでに写真を撮っていましたが、北京へ戻ってからより活発になりました。中国における日常的な都市や社会のリアリティを絶えず記録し、それに分析的観点を織り交ぜながら、ブログやTwitterを通じて議論を交わし、コミュニケーションを図っています。
夥しい数の写真はフィルムに収められた情景から携帯電話のカメラで撮影された現代社会までに及び、彼の記録活動は決して一過性のものではなく、息長く継続していることが伺えます。

アイ・ウェイウェイは意図的に中国や世界の社会情勢に直面していきます。
ラディカルな都市の変容。2008年5月に発生した四川大地震の犠牲状況に関する調査。上海にある彼のスタジオが破壊されたときのことを捉えた記録。彼の芸術写真のプロジェクトとともに、彼の数百数千に及ぶブログの投稿、ブログにアップした写真、携帯電話で撮影した写真(数多くの芸術的な宣言がともに綴られている)といった記録的側面のある作品もあわせて展開されています。
写真という記録媒体を通じて、進歩という名の下に建築学的な皆伐の進行や世界の計測への挑発を浮き彫りにし、一方で「Study of Perspective」(政治的な施設やアイコニックなランドマークなどに向けて中指を立てた左手を突き出す構図の写真群からなるシリーズ。権力(究極的には拒絶)というアーティストとしての視点を物語り、鑑賞者に対していかなる権力層に向けても疑う余地のない服従を挑んでいる)を通じて、彼の個人的なポジショニングを明らかにします。

なかでも、2007年のドクメンタ12で発表されたプロジェクト「Fairytale」は非常に興味深いです。
これまでに海外渡航の経験がない1,001人の中国市民をドクメンタの会場であるカッセルに呼び寄せるという「生きたインスタレーション」。各々の市民を中国国内の大使館近くで単独撮影した写真が並びます。
中国の人口のうち大多数を占める貧民にとって、言うまでもなくパスポートやビザを手に入れて外国へ旅立つことは極めて難しいこと。海外への旅は最早現実的な出来事というよりは「Fairytale(童話)」のようだ、という意味合いが込められています。

写真やビデオを用いた一連のプロジェクトを通じて、アイ・ウェイウェイの多様性や複雑さ、つながりにフォーカスをあて、数百にも及ぶ写真やブログ、解釈上のエッセイなどから、彼の「交絡」や「ネットワーク」をみていくことになるでしょう。

 

Ai Weiwei / Interlacing
Steidl
496 pages
Softcover
170 x 236mm
English
ISBN: 978-3-86930-377-6
05/2011

 

Roni Horn / Hack Wit

Added on by Yusuke Nakajima.

Roni Horn(ロニ・ホーン、1955年ニューヨーク生まれ)は、現在ニューヨークとアイスランド・レイキャビクを拠点とするビジュアル・アーティスト。映像や写真、インスタレーションなど、あらゆる表現方法を駆使して、コンセプチュアルな作品を展開することで知られています。

2015年6~7月にかけて、近・現代美術作品を専門に扱うコマーシャルギャラリーHauser & Wirth(ハウザー&ワース)のうち、ロンドンにあるギャラリースペースでホーンの個展が開催されました。
同展では、独自性が高い彫刻的なドローイングで構成された「Or」とグリッド状になったグワッシュのシーケンスで構成された「Remembered Words」、そして本書に収録されている「Hack Wit」の3つのシリーズを同時に発表しました。

ホーンにとってドローイングとは、多岐にわたる実践を支える、最優先ともいえる活動です。
彼女の作り出す複雑なドローイングは、アイデンティティ、解釈、ミラーリング、テキストを用いた遊びといった、これまでにホーンが突き詰めてきた「繰り返し起こるテーマ」を検証し、この重要な展覧会において融合しています。

「Hack Wit」と銘打ったドローイングシリーズは2013年から2015年のあいだに発展したものです。
2014年に発表されたOrシリーズと類似した点があり、両者とも再構築的な方法論を採用していますが、本作は言語や言葉遊びに基づいているという点に特徴を見出すことができます。フレーズやことわざといった慣用表現を再構成して、予想を裏切るような無意味でごちゃ混ぜの表現を生じさせます。
ホーンが兼ねてより用いるペアリングやミラーリングは、ただフレーズそのものというだけでなく、紙が刻まれているということによってもしっかりと織り込まれています。それゆえ、彼女のプロセスにはドローイングの文脈が見事に反映しているのです。

作品に描かれている言葉は、彼女がイメージしたものだったり表現派的に描いたものだったりするのですが、こうしたやり方を組み合わせたそれらの言葉は、予測できない形で出現します。
ふたつの表現をひとつに融合するという統語的なルールを新たに考案し、似たような破裂音や頭韻の性質をもつ言葉を巧みに用いて表現へと落とし込みます。例えば「desire(ディザイア)」や「desert(デザート)」を用いて、「just desire burning desert」といった具合に言葉を紡ぎだすのです。
すると、鑑賞者はたちまち詩的なイメージや幼少期に遊んだ記憶のある早口言葉を彷彿させることでしょう。

彼女の言葉遊びによって出来上がった、まるで水中に沈んでいるように揺らぎ漂うビジュアルは、彼女の作品の本質が持つ、鑑賞者の関心をぐっと引き寄せる魅力とも不思議とリンクしています。

Roni Horn / Hack Wit
Steidl
104 pages
Four-color process 
Hardback / Clothbound 
28 x 30.5 cm
English
ISBN 978-3-86930-982-8 
2015

Maja Hoffmann / This Is The House That Jack Built.

Added on by Yusuke Nakajima.

Maja Hoffmann(マヤ・ホフマン、1956年スイス生まれ)は、現代美術・デザインの熱心なコレクター。ピカソなどの作品をコレクションしていた同名の祖母の血筋をしっかりと引き、慈善活動として現代美術の制作・出版・映像、また社会的・環境的な活動といった文化的プロジェクトへのサポートに勤しんでいます。2004年にはスイス・チューリッヒで非営利組織のLUMA財団を創設し、インディペンデントな現代美術作家や表現者を支援してきました。彼女は自身のコレクションの一部を共有することを肯定的に捉え、「アートやアーティストとともに暮らすことは、ダイナミックで有意義な経験であるということ、言うなれば夢へ向かうための港である」と考えています。

そんな彼女の活動も、よりパブリックな段階へ突入しました。フランス・アルルに設立されたLUMA財団センターは、建築家Frank Gehry(フランク・ゲーリー)が設計を手がけたことで知られています。

写真家のFrançois Halard(フランソワ・ハラード)は、ニューヨーク・パリ・アルルを拠点とし、世界的なファッション誌から報道写真まで、活動の範囲は多岐にわたります。また、アーティストやその創作空間に関しても関心が深く、Cy Twombly(サイ・トゥオンブリ―)・Robert Rauschenberg(ロバート・ラウシェンバーグ)・Julian Schnabel(ジュリアン・シュナベール)らのスタジオを撮影してきた人物でもあります。
本書の制作を通じて、彼はそのセンシティブな写真でもって、現代において世界で最も多作で著名なインテリア・建築写真家のひとりとしての地位を確立したといっても過言ではないでしょう。

そのハラードの写真を踏まえて、アートディレクターのBeda Achermann(ベダ・アハマン)は、流れるようなイメージの詩的なレイアウトを組みました。
ふたりともアートを愛するひとたちということもあり、ホフマンとさまざまな観点から対話を重ねたことが、結果としてこのプロジェクトの完成度を高めることに繋がりました。

アーティストのラインナップだけでもため息がでるような錚々たる面子の逸品が揃い、彼女のコレクションの秀逸さに圧倒されます。とはいえ、ただ演出めいた見せ方をするのではなく、いささか彩度の高いざらつきのある写真によってドラマチックに描写しているため、ページをめくるごとに思わず心がときめきます。
制作のうえで「人間らしい描写」ということが念頭に置かれているようで、それぞれの写真には人々の姿こそ写り込まないものの、その存在を気配で感じることができます。この点からも、彼女がアートと共生することを望んでいることが伺えます。

このプロジェクトを完成へと押し進めるうえで、アルゼンチン・ブエノスアイレス生まれのタイ王国現代美術作家のRirkrit Tiravanija(リクリット・ティラワニ)の存在を欠かすことはできません。イギリスの童謡[This Is The House That Jack Built](「ジャックの建てた家」という意味)をもとにしたタイトルや、写真に混じりながら登場するテキストのフォントは、彼自身が特別にデザインしたもの。わずかに執念深さを感じられつつも程よいユーモアが込められていて、その道すがらにたくさんの発見を示しています。
童謡のテキストが挿入されることにより、あるひとりの人物のコレクションを見せることにより図らずも生じかねない虚栄心の形跡を丁寧に取り除いています。読者に対して解釈や想像の扉を広く開け放ちつつ、進行中の作品やヴィジョンを遺憾なく披露しています。

Maja Hoffmann / This Is The House That Jack Built.
Steidl
Photographs by François Halard, Designed by Studio Achermann
240 Pages
159 Photographs
Softcover in slipcase
245 x 340 mm
English
ISBN 978-3-86930-935-4
2015

Koto Bolofo / I Spy with My Little Eye, Something beginning with S

Added on by Yusuke Nakajima.

Koto Bolofo(コト・ボロフォ)は1959年に南アフリカで生まれ、イギリスで育ちました。ヴォーグ、ヴァニティ・フェア、GQといったファッション誌の誌面作りにも携わるほか、ベルリンやヴェネツィアの国際映画祭でショートフィルムを制作しています。また、エルメス、ルイ・ヴィトン、ドン・ペリニヨンといった錚々たるメゾンの広告キャンペーンを手がけることでも知られています。

彼はドイツを拠点とする出版社のSteidl社とも関係が深く、これまでに同社から数々の写真集を出版してきました。
代表作には、エルメスの工房に立ち入ることを許された初めての写真家として、工房の内観や職人たちの作業風景を撮り収めた[LA MAISON]、言わずと知れたイギリスの高級車ロールス・ロイスから全権委任され、丹精なクラフトマンシップに焦点を充てた[Rolls-Royce]が挙げられますが、いずれも上質で気品のある被写体をただ闇雲に撮影しているのではなく、緻密な作業の積み重ねによって生み出される不朽の魅力を印象的に捉えます。
その真髄を余すことなく写し出す写真は美しく、うっとりと優雅な気持ちにさせてくれることでしょう。

 

確かな腕と審美眼に支えられた彼の写真は、どうやらSteidl社の創設者であるゲルハルド・シュタイデル氏のお眼鏡にもかなったようです。ボロフォは、Steidl社の社屋を訪れ、その内部を撮影しました。


Steidl社は社内に全ての生産機能を持ち、編集、デザイン、印刷から製本、流通まで、本にまつわる工程を一括して自社で手がけ、年間約200冊ほどのペースで出版しています。その数字だけ聞くと精力的な活動であることは瞭然ですが、実は約35名程度で運営しているそう。少数気鋭の集団だからこそ意思疎通がスムーズに進み、無駄なく作業を遂行していくことができるのです。

 


1冊の本をつくるまでには、計り知れないほど数々の試練が待ち構えているだろうというのは想像に難くないでしょう。プロフェッショナルとしての心意気がにじみ出る真剣なまなざし、時折みせるユーモアを交えた表情。いずれも公に開かれていない作業現場ゆえに普段は表立ってみえてこないけれど、裏で本の誕生を支える重要な一幕です。
昨今「つくり手の顔がみえること」を良しとする風潮がありますが、手に取ったこの本は一体どんなひとたちによって形づくられたのかというのがみえるだけで、一層愛着がわくのではないでしょうか。

 

 

Koto Bolofo / I Spy with My Little Eye, Something beginning with S
Steidl
Book / Hardcover
29 x 37 cm
English
ISBN 978-3-86930-035-1
03/2010

Karl Lagerfeld / Shopping Center

Added on by Yusuke Nakajima.

世界の名だたるメゾンが開催するファッションショーは、来るシーズンのコレクションがいち早くみられるというリサーチの場である以上に、独自の世界観を存分に発揮するエンターテインメントとしても多いに注目されています。
なかでも、シャネルのデザイナーである Karl Lagerfeld(カール・ラガーフェルド)は、ショーのために徹底的につくり込まれた空間を出現させ、圧倒的なスペクタクルで観衆を魅了することで知られています。
毎度趣向をこらし、想像を遥かに上回る壮大な演出が会場を埋め尽くすようすは、関係者だけではなく社会的にも話題になるほどです。

そんな彼の2014/15秋冬のプレタポルテコレクション、会場のキャットウォークには突如「シャネル・ショッピングセンター」があらわれました。
棚にはシャネルの象徴的なダブルシーのマークが印字された食品パッケージが整然と並び、先シーズンのコレクションテーマを取り入れたアイテムが所狭しと収められています。ふたつとない魅惑的なマーケットで、モデルたちは次々とアイテムを手に取ってはショッピングカートへ入れていきます。
こうしたオリジナルの製品と並び、真空パックされたハンドバックや南京錠をモチーフにしたジュエリーといった、シャネルの真骨頂となるアイテムもお目見えします。

普段スーパーマーケットの陳列棚にありふれたアイテムも、シャネルのマークが付された途端、そこに付加価値が生まれます。
資本主義的な社会のあり方に対する皮肉が込められたアイディアは、揺るぎないシャネルのブランド価値があってこそ、ユーモアのある演出として功を奏するのです。

 

Karl Lagerfeld / Shopping Center
Steidl
94 Pages
Paperback / softback
18 x 26 cm
English
ISBN 978-3-86930-815-9
01/2015

Robert Polidori / Chronophagia

Added on by Yusuke Nakajima.

カナダ・モントリオール出身のRobert Polidori(ロバート・ポリドーリ、1951年生まれ)は、現在はロサンゼルスを拠点に活動する写真家で、とりわけ建築写真で知られています。また、1997年の世界報道写真大賞を始め、数々の写真に関する受賞歴があります。
1970年代にあたる若かりし頃には、「アメリカ実験映画のゴッドファーザー」の異名を持つ映像監督ジョナス・メカスに師事し、前衛的な映画作品を制作していました。
1980年にはニューヨーク州立大学で修士号を取得、その後静物写真家へ転身し、1987年以降はパリとニューヨークの二拠点で活動を展開するようになります。The New Yorker誌にスタッフ・フォグラファーとして在籍しながら、Vanity Fair誌といった他誌での仕事も請負っていました。

本書は、ポリドーリにとって初となる美術館での回顧展にあわせて出版されました。
彼が30年以上かけて世界中を旅し、既によく知っていると思われがちな場所を撮影した100点を超える作品からセレクトされた作品が収録され、ページをめくるごとに、まるで絵画のように美しく凛々しい写真が続きます。

なかには、廃墟となってから久しいであろう室内空間も映し出されていますが、今の様相になるまでにどれだけの時間が積み重なったのだろうと想像しながら、遥か昔にはこの場所にもきっと人々が行き交い、どんなドラマが繰り広げられていたのだろうかと思いを馳せます。

終盤は、街を俯瞰した景観が広がります。
彼の航空写真は、大判カメラのキップ・ウェットスタインの特注を使って撮影されます。
隙間なくせめぎ合うようにして林立する家屋が並ぶ情景のなかに人物こそ映り込むことはないものの、そのディテールをみると人々の暮らしぶりが垣間見えてくるようで興味深いです。

 

Robert Polidori / Chronophagia
Steidl
152 Pages
Hardback / Clothbound
29 x 32 cm
English
ISBN 978-3-86930-698-8
09/2014

William Eggleston / From Black & White to Color

Added on by Yusuke Nakajima.

1970年代に興った写真のムーブメント「ニューカラー」と言えば、多くのひとはまずWilliam Eggleston(ウィリアム・エグルストン、1939生まれ)を思い浮かべることでしょう。
1950年代末、エグルストンは地元のテネシー州メンフィスで35mmのモノクロフィルムで撮り始めますが、実はフランスの写真家であるアンリ・カルティエ=ブレッソンの影響を多大に受けていました。
本人の言葉を借りれば、当時の作風は「完璧な偽物のカルティエ=ブレッソン」だったようです。

キャリアを重ねていくにつれ、やがて彼独自のスタイルが出来上がっていきます。
被写体となっているのは、スーパーマーケットやダイナー、自動車など、希少性に乏しい、ありふれたものたち。
セッティングされたシチュエーションで予定調和に撮るわけではなく、当時のアメリカでよく目にする取るに足らないアイコンに目を向け、繰り返しファインダー越しに撮り収めていました。
グラフィカルな構図を組むこともある一方で、水平を保たない状態でもためらわずシャッターを押すときもあります。
一見すると散漫しがちな印象を受けるかもしれませんが、不思議なもので、一連の作品には共通してエグルストンならではの作品性が存在することがわかります。
もちろん強いコントラストなど写真そのものから伝わることもあるのですが、本当のところは、そこに漂う空気感なのではないでしょうか。
レンズを向けられた人々の服装や建物をみると当時の時代感があらわれていて、今を生きる私たちにとってはそれをみるだけでも郷愁や憧れの感覚が沸き起こります。
日常に潜む些細な一瞬の出来事をドラマチックな情景として捉えるところは、自ずと心の師であるブレッソンから譲り受けた「決定的瞬間」に準ずる感性なのでしょう。

本書はエグルストンの初期のモノクロ写真の作品から代表的なカラー写真の作品が収録されています。
一般的にモノクロ写真とカラー写真を1冊の本に収録することは統一感が失われやすいために避けられるのですが、本書では気味の良いリズムが生まれ、違和感なく調和しています。
また、単行本よりもひとまわり大きい程度のサイズ感は手馴染みもよく、気が向いたときにさっと取り出せるのも魅力です。

William Eggleston / From Black & White to Color
Steidl
200 Pages
Hardback
16.7 x 22.6 cm
English
ISBN 978-3-86930-793-0
09/2014