Roni Horn / the selected gifts

Added on by Yusuke Nakajima.

概念が主軸となるコンセプチュアル・アートを表現するうえで肝になるのは、演出力ではないでしょうか。どのようにアウトプットするかで、作品自体の訴求力が歴然と変わってきます。

現代美術作家のRoni Horn(ロニ・ホーン、1955年 アメリカ・ニューヨーク生まれ)の、特定の対象物に対して一心不乱に目を向けていく真摯さには脱帽です。表現媒体となる写真のトーンには、彼女らしい視点が端的に表れています。執念じみた情感とは無縁で、図鑑に収録された資料のような淡々とした表現へと昇華するスタンスは、まるで冷徹な研究者のよう。その一定した調子に安心感すら覚えます。

そんなホーンが、またしても新境地を開きました。今回彼女が着目したのは、自身が受け取ったギフトです。

贈る側が抱くホーンの印象を可視化する一方で、選んだひと自体の価値観がにじみ出ています。ホーンが自分の意思で選び取ったものならばどこかしら一貫性を見出せるでしょうが、「ホーンが贈られたもの」という点で辛うじて結びつく一連のアイテムは見るからにテイストにばらつきがあります。

脈絡のない構成要素を並列したときに統一感を保つには、写真の撮り方が肝心です。今回の場合は、とりわけ背景の色がカギとなります。わずかに柔和な乳白色により、年月を経てきた深みのあるエッセンスを加味しながら、同時に潔さをも醸し出しています。同じ白でも漂白されたようなパキっとした発色だったら、きっと違う印象になっていたことでしょう。

実体を伴わない形態だからこそ枠にとらわれない自由な発想で表現できる一方で、どのようにしてとっかかりを掴んでもらうかを思案するのは骨折れる過程だろうことは想像に難くありません。けれど、コンセプトと作品の表現とがうまく合致した暁には、その醍醐味をストレートに伝えることがかなうのです。

Roni Horn / the selected gifts
Steidl
120 pages
Hardback / Clothbound
280 x 305 mm
English
ISBN: 978-3-95829-162-1
03/2016
7,100円+税