Masahisa Fukase / Hibi

Added on by Yusuke Nakajima.

1974年にニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催された「NEW JAPANESE PHOTOGRAPHY」は、日本の写真史において記念碑的な展覧会といわれています。MoMA写真部門ディレクターのJohn Szarkowski(ジョン・シャーコフスキー、1925年アメリカ・ウィスコンシン州生まれ)と、日本の写真雑誌「カメラ毎日」の元編集長・山岸章二(やまぎし しょうじ、1930年生まれ)との協働により、15名の日本人写真家が紹介されました。
土門拳、石元泰博、東松照明、川田喜久治、内藤正敏、一村哲也、土田ヒロミ、奈良原一高、細江英公、森山大道、秋山亮二、ケン・オハラ(小原健)、田村彰英、十文字美信ら同時代の写真家とともに紹介されたのが、深瀬昌久(ふかせ まさひさ、1934年 北海道・中川郡美深町生まれ)でした。

深瀬は、祖父が開業した写真館を営む一家のもとに生まれました。後継を志すべく家業を手伝いながら成長し、日本大学芸術学部写真学科への進学を機に上京。在学中には多くの写真仲間に恵まれ、自主的な作品制作への興味を募らせます。卒業後には一転して東京にとどまることを選び、広告写真の分野へと進むことを決意しました。そして、日本デザインセンター・河出書房などを経て、1968年にはフリーランスとしての活動を始動しました。

先に述べた「NEW JAPANESE PHOTOGRAPHY」では、元妻を題材とした「洋子」を発表しました。その他の代表作としては、1968年に発表した「鴉」、家族写真を時系列にまとめた「家族」、晩年の作品ではセルフポートレイトの「ブクブク」などで知られる「私景」シリーズがあります。モチーフはさまざまですが、いずれも被写体に向けられたレンズを通して自分自身を見つめていた節があったのではないでしょうか。モノクロ写真が織りなす陰影が、彼が秘かに抱いていたであろう心の闇と重なります。

日本の写真界を牽引する写真家として評価されていた深瀬に、思いもよらない悲劇がふりかかりました。1992年にゴールデン街のとある階段から転落して脳挫傷を負い、敢えなく作家生命を閉じることになりました。

本作「HIBI」は、不慮の事故に遭う直前にあたる1990年から1992年にかけて制作されたものです。深瀬は日々の道すがらに見かけた道路の亀裂(ヒビ)を撮影し、現像したプリントに自ら着色していきました。
ただ線をなぞるというような型にはまったやり方だけではなく、感性の赴くままに手を動かしていたのでしょう。まるでヒビから流れ出すかのように滲んだ色。アクション・ペインティングを思い起こさせる躍動感のある色シミのちらばり。なかには自らの指紋を付している作品もありますが、これは自身の痕跡をとどめておきたかったようにも見受けられます。フォトモンタージュ(*1)の技法を巧みに用いる点は、深瀬ならではの作風といえるでしょう。

複製できるという特性をもつ写真作品をそのまま発表するのではなく、それを素材として大幅に手を加えることで、ふたつとないユニークピースの作品へと仕立て上げる。写真を用いた表現について、可能性の広がりを感じさせてくれるような好例です。

Masahisa Fukase / Hibi
MACK
240 pages
Swiss-bound hardcover
160 x 260 mm
English
ISBN: 9781910164457
2016

8,300円+税
Sorry, SOLD OUT

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注釈
*1 フォトモンタージュ
写真を部分的な要素として引用、または合成して制作される作品の総称。具体例としては、写真を切り貼りするコラージュや、二重露光などが挙げられる。