William Eggleston / From Black & White to Color

Added on by Yusuke Nakajima.

1970年代に興った写真のムーブメント「ニューカラー」と言えば、多くのひとはまずWilliam Eggleston(ウィリアム・エグルストン、1939生まれ)を思い浮かべることでしょう。
1950年代末、エグルストンは地元のテネシー州メンフィスで35mmのモノクロフィルムで撮り始めますが、実はフランスの写真家であるアンリ・カルティエ=ブレッソンの影響を多大に受けていました。
本人の言葉を借りれば、当時の作風は「完璧な偽物のカルティエ=ブレッソン」だったようです。

キャリアを重ねていくにつれ、やがて彼独自のスタイルが出来上がっていきます。
被写体となっているのは、スーパーマーケットやダイナー、自動車など、希少性に乏しい、ありふれたものたち。
セッティングされたシチュエーションで予定調和に撮るわけではなく、当時のアメリカでよく目にする取るに足らないアイコンに目を向け、繰り返しファインダー越しに撮り収めていました。
グラフィカルな構図を組むこともある一方で、水平を保たない状態でもためらわずシャッターを押すときもあります。
一見すると散漫しがちな印象を受けるかもしれませんが、不思議なもので、一連の作品には共通してエグルストンならではの作品性が存在することがわかります。
もちろん強いコントラストなど写真そのものから伝わることもあるのですが、本当のところは、そこに漂う空気感なのではないでしょうか。
レンズを向けられた人々の服装や建物をみると当時の時代感があらわれていて、今を生きる私たちにとってはそれをみるだけでも郷愁や憧れの感覚が沸き起こります。
日常に潜む些細な一瞬の出来事をドラマチックな情景として捉えるところは、自ずと心の師であるブレッソンから譲り受けた「決定的瞬間」に準ずる感性なのでしょう。

本書はエグルストンの初期のモノクロ写真の作品から代表的なカラー写真の作品が収録されています。
一般的にモノクロ写真とカラー写真を1冊の本に収録することは統一感が失われやすいために避けられるのですが、本書では気味の良いリズムが生まれ、違和感なく調和しています。
また、単行本よりもひとまわり大きい程度のサイズ感は手馴染みもよく、気が向いたときにさっと取り出せるのも魅力です。

William Eggleston / From Black & White to Color
Steidl
200 Pages
Hardback
16.7 x 22.6 cm
English
ISBN 978-3-86930-793-0
09/2014