Roni Horn / Hack Wit

Added on by Yusuke Nakajima.

Roni Horn(ロニ・ホーン、1955年ニューヨーク生まれ)は、現在ニューヨークとアイスランド・レイキャビクを拠点とするビジュアル・アーティスト。映像や写真、インスタレーションなど、あらゆる表現方法を駆使して、コンセプチュアルな作品を展開することで知られています。

2015年6~7月にかけて、近・現代美術作品を専門に扱うコマーシャルギャラリーHauser & Wirth(ハウザー&ワース)のうち、ロンドンにあるギャラリースペースでホーンの個展が開催されました。
同展では、独自性が高い彫刻的なドローイングで構成された「Or」とグリッド状になったグワッシュのシーケンスで構成された「Remembered Words」、そして本書に収録されている「Hack Wit」の3つのシリーズを同時に発表しました。

ホーンにとってドローイングとは、多岐にわたる実践を支える、最優先ともいえる活動です。
彼女の作り出す複雑なドローイングは、アイデンティティ、解釈、ミラーリング、テキストを用いた遊びといった、これまでにホーンが突き詰めてきた「繰り返し起こるテーマ」を検証し、この重要な展覧会において融合しています。

「Hack Wit」と銘打ったドローイングシリーズは2013年から2015年のあいだに発展したものです。
2014年に発表されたOrシリーズと類似した点があり、両者とも再構築的な方法論を採用していますが、本作は言語や言葉遊びに基づいているという点に特徴を見出すことができます。フレーズやことわざといった慣用表現を再構成して、予想を裏切るような無意味でごちゃ混ぜの表現を生じさせます。
ホーンが兼ねてより用いるペアリングやミラーリングは、ただフレーズそのものというだけでなく、紙が刻まれているということによってもしっかりと織り込まれています。それゆえ、彼女のプロセスにはドローイングの文脈が見事に反映しているのです。

作品に描かれている言葉は、彼女がイメージしたものだったり表現派的に描いたものだったりするのですが、こうしたやり方を組み合わせたそれらの言葉は、予測できない形で出現します。
ふたつの表現をひとつに融合するという統語的なルールを新たに考案し、似たような破裂音や頭韻の性質をもつ言葉を巧みに用いて表現へと落とし込みます。例えば「desire(ディザイア)」や「desert(デザート)」を用いて、「just desire burning desert」といった具合に言葉を紡ぎだすのです。
すると、鑑賞者はたちまち詩的なイメージや幼少期に遊んだ記憶のある早口言葉を彷彿させることでしょう。

彼女の言葉遊びによって出来上がった、まるで水中に沈んでいるように揺らぎ漂うビジュアルは、彼女の作品の本質が持つ、鑑賞者の関心をぐっと引き寄せる魅力とも不思議とリンクしています。

Roni Horn / Hack Wit
Steidl
104 pages
Four-color process 
Hardback / Clothbound 
28 x 30.5 cm
English
ISBN 978-3-86930-982-8 
2015