「決定的瞬間」という、一般的にも多用されるこの言葉は、
フランスの写真家であるHenri Cartier-Bresson(アンリ・カルティエ=ブレッソン、1908-2004)の写真集のタイトルとしてもよく知られています。
初版は1952年に発行されたものの、長らく絶版の状態が続いていましたが、
半世紀を超えた2014年末、幻の一冊がドイツのSteidl社より初めて再版されました。
初版のグラビア印刷の風合いを、現代のオフセット印刷の技術を駆使して忠実に再現しています。
収録されている作品はもちろん、同じくフランスの画家であるアンリ・マティスによるコラージュが印象的な表紙デザインも健在です。
贅沢な仕様のスリーブから出し、大きな判型の写真集を開いてみれば、そこにはブレッソンが捉えた「決定的瞬間」の集大成が並びます。
なかでも最も有名な作品『サン=ラザール駅裏』は、人が水たまりを飛び越える瞬間を捉えていますが、これぞ彼の真骨頂ではないでしょうか。
街に繰り出しては「決定的瞬間」を逃すまいと常に小型カメラを構えていたブレッソン。
場を演出して撮影したのでは決して捉えることのできない、スリルのある臨場感や現場での奇跡的な邂逅は類稀な瞬発力があってこそのものですが、余分な被写体や空間が存在しないということももうひとつの大きな特徴です。
これは彼に絵画の教養があったことが影響しています。
ただ気の赴くままに写真を撮り収めたのではなく、構図に対して極めて慎重であったがゆえに成立する作品なのです。
身体感覚を伴う写真という表現の特性とも見事に調和したこれらの作品群は、20世紀の写真界におけるマイルストーン(標石)と言っても過言ではないでしょう。
Henri Cartier-Bresson / The Decisive Moment
Steidl
160 + 48 booklet Pages
Clothbound in slipcase
27.4 x 37 cm
English
ISBN 978-3-86930-788-6
12/2014