Maja Hoffmann(マヤ・ホフマン、1956年スイス生まれ)は、現代美術・デザインの熱心なコレクター。ピカソなどの作品をコレクションしていた同名の祖母の血筋をしっかりと引き、慈善活動として現代美術の制作・出版・映像、また社会的・環境的な活動といった文化的プロジェクトへのサポートに勤しんでいます。2004年にはスイス・チューリッヒで非営利組織のLUMA財団を創設し、インディペンデントな現代美術作家や表現者を支援してきました。彼女は自身のコレクションの一部を共有することを肯定的に捉え、「アートやアーティストとともに暮らすことは、ダイナミックで有意義な経験であるということ、言うなれば夢へ向かうための港である」と考えています。
そんな彼女の活動も、よりパブリックな段階へ突入しました。フランス・アルルに設立されたLUMA財団センターは、建築家Frank Gehry(フランク・ゲーリー)が設計を手がけたことで知られています。
写真家のFrançois Halard(フランソワ・ハラード)は、ニューヨーク・パリ・アルルを拠点とし、世界的なファッション誌から報道写真まで、活動の範囲は多岐にわたります。また、アーティストやその創作空間に関しても関心が深く、Cy Twombly(サイ・トゥオンブリ―)・Robert Rauschenberg(ロバート・ラウシェンバーグ)・Julian Schnabel(ジュリアン・シュナベール)らのスタジオを撮影してきた人物でもあります。
本書の制作を通じて、彼はそのセンシティブな写真でもって、現代において世界で最も多作で著名なインテリア・建築写真家のひとりとしての地位を確立したといっても過言ではないでしょう。
そのハラードの写真を踏まえて、アートディレクターのBeda Achermann(ベダ・アハマン)は、流れるようなイメージの詩的なレイアウトを組みました。
ふたりともアートを愛するひとたちということもあり、ホフマンとさまざまな観点から対話を重ねたことが、結果としてこのプロジェクトの完成度を高めることに繋がりました。
アーティストのラインナップだけでもため息がでるような錚々たる面子の逸品が揃い、彼女のコレクションの秀逸さに圧倒されます。とはいえ、ただ演出めいた見せ方をするのではなく、いささか彩度の高いざらつきのある写真によってドラマチックに描写しているため、ページをめくるごとに思わず心がときめきます。
制作のうえで「人間らしい描写」ということが念頭に置かれているようで、それぞれの写真には人々の姿こそ写り込まないものの、その存在を気配で感じることができます。この点からも、彼女がアートと共生することを望んでいることが伺えます。
このプロジェクトを完成へと押し進めるうえで、アルゼンチン・ブエノスアイレス生まれのタイ王国現代美術作家のRirkrit Tiravanija(リクリット・ティラワニ)の存在を欠かすことはできません。イギリスの童謡[This Is The House That Jack Built](「ジャックの建てた家」という意味)をもとにしたタイトルや、写真に混じりながら登場するテキストのフォントは、彼自身が特別にデザインしたもの。わずかに執念深さを感じられつつも程よいユーモアが込められていて、その道すがらにたくさんの発見を示しています。
童謡のテキストが挿入されることにより、あるひとりの人物のコレクションを見せることにより図らずも生じかねない虚栄心の形跡を丁寧に取り除いています。読者に対して解釈や想像の扉を広く開け放ちつつ、進行中の作品やヴィジョンを遺憾なく披露しています。
Maja Hoffmann / This Is The House That Jack Built.
Steidl
Photographs by François Halard, Designed by Studio Achermann
240 Pages
159 Photographs
Softcover in slipcase
245 x 340 mm
English
ISBN 978-3-86930-935-4
2015