William Eggleston / From Black & White to Color

Added on by Yusuke Nakajima.

1970年代に興った写真のムーブメント「ニューカラー」と言えば、多くのひとはまずWilliam Eggleston(ウィリアム・エグルストン、1939生まれ)を思い浮かべることでしょう。
1950年代末、エグルストンは地元のテネシー州メンフィスで35mmのモノクロフィルムで撮り始めますが、実はフランスの写真家であるアンリ・カルティエ=ブレッソンの影響を多大に受けていました。
本人の言葉を借りれば、当時の作風は「完璧な偽物のカルティエ=ブレッソン」だったようです。

キャリアを重ねていくにつれ、やがて彼独自のスタイルが出来上がっていきます。
被写体となっているのは、スーパーマーケットやダイナー、自動車など、希少性に乏しい、ありふれたものたち。
セッティングされたシチュエーションで予定調和に撮るわけではなく、当時のアメリカでよく目にする取るに足らないアイコンに目を向け、繰り返しファインダー越しに撮り収めていました。
グラフィカルな構図を組むこともある一方で、水平を保たない状態でもためらわずシャッターを押すときもあります。
一見すると散漫しがちな印象を受けるかもしれませんが、不思議なもので、一連の作品には共通してエグルストンならではの作品性が存在することがわかります。
もちろん強いコントラストなど写真そのものから伝わることもあるのですが、本当のところは、そこに漂う空気感なのではないでしょうか。
レンズを向けられた人々の服装や建物をみると当時の時代感があらわれていて、今を生きる私たちにとってはそれをみるだけでも郷愁や憧れの感覚が沸き起こります。
日常に潜む些細な一瞬の出来事をドラマチックな情景として捉えるところは、自ずと心の師であるブレッソンから譲り受けた「決定的瞬間」に準ずる感性なのでしょう。

本書はエグルストンの初期のモノクロ写真の作品から代表的なカラー写真の作品が収録されています。
一般的にモノクロ写真とカラー写真を1冊の本に収録することは統一感が失われやすいために避けられるのですが、本書では気味の良いリズムが生まれ、違和感なく調和しています。
また、単行本よりもひとまわり大きい程度のサイズ感は手馴染みもよく、気が向いたときにさっと取り出せるのも魅力です。

William Eggleston / From Black & White to Color
Steidl
200 Pages
Hardback
16.7 x 22.6 cm
English
ISBN 978-3-86930-793-0
09/2014

HET VERZAMELD BREIWERK VAN LOES VEENSTRA

Added on by Yusuke Nakajima.

オランダ人女性のロースさんは、1955年以降、純粋な制作意欲のもとセーターを編み続けてきました。その作品数は500点を超えます。
これらのセーターは、一般的にはあまり組み合わせないだろうという鮮やかな配色を選んだり、予想外の位置に袖が付けられている奇抜なパターンだったりと、彼女ならではの感性を活かし、枠に捉われない自由な発想で作られています。
これだけ膨大な数のカラフルでユニークな作品が存在するにも拘らず、これまで実際に誰かが袖を通すことも、その制作活動が脚光を浴びることもありませんでした。

この人知れず編み続けられたセーターが、DNA Charlois(ディーエヌエー シャロアー)Christine Meindertsma(クリスティン・メンデルツマ)により、ひとつの本になりました。

DNAシャロアーとは、ロッテルダム・シャロアー地区の文化的なDNAをデザイン活動で繋ぐことをねらいとした地域密着型プロジェクトのこと。
これを主導しているのが、ロッテルダムが地元のビジュアルアーティストであるNicole Driessens(ニコル・ドリエッセン)とIvo van den Baar(イーヴォ・ファン・デン・バール)が設立したアートとデザインの制作会社・Wandschappen(ヴァンスファッペン)です。
彼らはデザイナーに向けたプロトタイプの開発や制作をすることがありますが、今回はデザイナーのメンデルツマと共同でプロジェクトを進めることになりました。
メンデルツマはデザイナーという立場から、製品と原材料の生涯に着目しています。
例えば、『PIG 05049』では、一匹のブタのそれぞれの部位が、どれだけ多くの製品の原材料となっていったのかを追い、それらひとつひとつを写真に収めています。

本書の表紙には混紡のセーターを彷彿させるような質感の紙が採用されており、つい手触りを確かめたくなります。
中を開くと、1ページにつき1つのセーターが収録されています。一貫した白い背景のおかげで個々のディテールが際立ち、各々の個性が光ります。
ひっそりと編み続けられたセーターが、整然かつ洗練されたブックデザインに落とし込まれ、見事なビジュアル・アーカイブが完成しました。

2015年2月1日(日)まで21_21DESIGNSIGHTで開催されている「活動のデザイン」展では、ロースさんの手がけたセーター60点が展示されているほか、このプロジェクトに関する映像作品が上映されています。
映像では、DNAシャロアーとメンデルツマの呼びかけにより集まった人たちが実際にセーターに袖を通し、フラッシュモブ(インターネット上や口コミで呼びかけた不特定多数の人々が申し合わせて雑踏の中の歩行者として通りすがりを装って公共の場に集まり前触れなく突如としてパフォーマンス(ダンスや演奏など)を行って周囲の関心を引きその目的を達成するとすぐに解散する行為。※以上、wikipediaより抜粋)が起こった様子が映し出されています。
陽気な生演奏をBGMに、それぞれの着こなしで揚々とダンスを披露するひとたちはとても生き生きとしています。そして、初めて人が身につけたセーターとパフォーマンスを目にしたロースさんは嬉しそうに微笑み、いい表情をみせています。

 

参考文献
21_21DESIGNSIGHT webサイト

Stichting Kunstimplantaat
576 pages
Paperback
12 x 17 cm
Dutch/English summary
ISBN 978-90-819956-0-3
2012

ANIMAL by Stephanie Quayle

Added on by Yusuke Nakajima.

本書は、1982年イギリス・マン島生まれのStephanie Quayle(ステファニー・クエール)の初めての作品集です。
2014年11月に開催された、POSTでは2度目となるステファニーの個展にあわせて出版されました。

ステファニーは、セラミックで動物の彫刻作品を制作しています。
動物、そして動物の持つ天性に焦点をあてた彼女の作品は荒削りで生命力にあふれ、それは単なる動物のイメージの再現ではなく、あたかも命が宿されているかのように感じずにはいられません。

2012年春にオープンしたドーバー ストリート マーケット ギンザの1Fに、部屋を埋め尽くすほど巨大な白い象が展示されましたが、これも彼女の作品です。
この象は他のクリエイターたちとユーモアに富んだコラボレーションを重ねていて、その都度話題となっています。

彼女が生まれ育ったマン島には雄大な自然が存在し、そこで暮らす人々もおおらかな気質だといいます。
また、実家が農場ということもあり、幼少の頃から動物たちと親しんで成長してきました。
彼女自身が自然界と直接的な関わりを持っていることが、結果として動物たちに対する深い理解を生み出すことに繋がっています。

その素晴らしい環境を一度離れ、学生時代はロンドンで過ごしました。世界的にも最高峰の機関で彫刻の専門教育を受けたことは、技術面において彼女の作品の完成度を高めることに一役買っています。
10年ほど続いたロンドンでの生活を経て、再びマン島へと拠点を戻しました。


2014年6月、POSTでは彼女の展覧会が開催されました。
作品数こそ少なかったのですが、会場には連日多くの来場者が足を運んでくれました。
そのときに展示された作品や会場風景も本書に収録されています。

同年9〜10月には、信楽にある志賀県立陶芸の森で滞在制作を経験しました。
マン島のスタジオにある電気窯よりも4倍ほど大きいガス窯、そして薪 を火にくべて焼成する薪窯を使った制作は、実験と検証の繰り返しでした。いつも使用する土とは異なる性質の土による制作に向けて、テストピースで焼き具合 を確かめては、作品にも実用できるのかを検討します。
滞在を通じて、ニホンザルやシカといった日本ならではの動物をみれたことは大きな糧となりました。
信楽で制作された作品はサルやシカが多いことも、そのことがよく反映されています。

同じくアーティストとして活動する、彼女のパートナーであるダレンや施設スタッフたちの献身的な協力に支えられた制作でしたが、慣れない環境で試行錯誤をしたこともありました。とりわけ湿度の高い日本の残暑には驚きを隠せなかったようです。
また、思わぬところで制作が難航する場面もありました。この時期、信楽では大雨が続き、窯に入れる前の粘土が乾きづらかったらしく、その分制作スケジュールは後ろ倒しになり、結局滞在最終日に窯出しすることになりました。

こうして信楽で制作された新作は、同年11月に再びPOSTの個展でお披露目となりました。
彫刻作品はもちろん、彫刻を制作する前段階に手がける、躍動感のあるペーパードローイング作品や、陶板や木板を支持体にした平面作品も展示されました。

造本という観点からみても、彼女らしさが存分にあらわれた作品集に仕上がっています。
初めての作品集ということを意識し、重厚感のあるつくりではなく、ノートブックのような軽やかなたたずまいをしています。紙の質や色合いも、彼女の作品の要素を抽出したうえで選定されています。
また、滞在制作のドキュメントという位置づけもあるため、スタジオでの制作風景といったより臨場感のあるショットが満載です。
作品写真だけではなく、彼女へのインタビューや陶芸作家・桝本佳子さんとの対談も収録、見応え・読み応えともに充実した内容になっています。

 

ANIMAL by Stephanie Quayle
Published by aty inc.
Distributed by limArt
144 Pages
Staple binding
18.2 x 25.7 cm
ISBN 978-4-9907173-4-6
Edition of 1,000 copies
2014

Neue Grafik

Added on by Yusuke Nakajima.

ノイエ・グラーフィク(ドイツ語で「ニュー・グラフィック・デザイン」の意味)は、第二次世界大戦後の1950年代後半にスイスで発行された伝説的なデザイン雑誌です。

本誌は、1950年代のスイスにおけるモダン・グラフィックデザインの潮流を汲むことを目的とし、リヒャルト・パウル・ローゼ(1902-1988)、ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン(1914-1996)、ハンス・ノイブルク(1904-1983)、カルロ・ヴィヴァレリ(1919-1986)の4人のデザイナーにより1958年に創刊されました。
彼らは主観的表現から離れ、より抽象性の高い機能主義的・客観的な思考に基づく視覚伝達を推進しました。
幾何学的形態さえをも排し、文字造形だけを利用したタイポグラフィックな構成が多用されたほか、誌面のレイアウトにも構成的要素が重視されています。
雑誌の方向性としては、ただ構成的デザインの良否を問うものではなく、良い事例を取り上げることに専念しています。
明晰な論調で展開される分析を添えながら、その当時のデザイン動向を伝えるという立ち位置に徹していたのです。

編集者たちは、この雑誌が新しいグラフィックデザインにおける国際的な議論の場として機能することを望みましたが、実際掲載されたデザイン事例のほとんどがスイスのものでした。
しかし、そのことが却ってスイスで新しいデザインの潮流が生じていることを強烈に印象づけることに繋がりました。
構成的客観性のある「スイス・スタイル」は広い視野をもって国境を超えて波及していくだけの底力があり、こうした機運の高まりを受けて創刊に至りました。

彼らが純粋な心持ちでデザインの将来像と向き合うことができたのは、スイスが永世中立国であったことも無縁ではないでしょう。
戦渦からの復興にあえぐ他諸国の置かれた状況とは一線を画する平和的な国情に後押しされて、グラフィックデザイナーは一個の独立した存在であるという自負を胸に、「新しい視覚伝達」を世界に向けて発信していきました。
1950年代から60年代はまさに「新しさ」に対する希求が世界的にも充満していたこともあり、「新しい視覚伝達」こそが前進的な道標となったのです。

編集者たちの高い理想や情熱に支えられたポジティブな展望とは裏腹に、売上や定期購読者は伸び悩み、経済的な状況は芳しくない状態が続いていました。
これに加えて、4人それぞれが個人単位での活動が精力的になったことも相まって本誌の遂行が阻まれ、結局創刊から7年となる1965年、通巻17号(最終号は17/18号合併号)でその幕を閉じることになりました。

とはいえ、彼らの進歩的な取り組みは確実に次世代へ影響を及ぼしていたと断言できます。特にグラフィックデザインに関しては啓蒙的性格のある日本での浸透は著しいものです。
ミューラー=ブロックマンが1960年に東京で開催された世界デザイン会議を契機として以後数年にわたり来日を重ねて、講演や本誌の宣伝を行ったことは決定打となりました。
焼け野原からの再起を遂げた戦後日本のグラフィックデザインが進むべき方向を見出そうとするときに、本誌は頼もしい羅針盤となりました。

今もなお国際的に歴史的影響力を持つ本誌のオリジナル版は、希少性の高さから価格が高騰し入手困難の状態が続いていました。
この幻の雑誌が、2014年にスイスの出版社・Lars Müller Publishers(ラース・ミュラー・パブリッシャーズ)より全号を網羅した復刻版として刊行されました。
オリジナルを忠実に再現され、ボックスケースに収められた完全版は、コレクターならずとも一見の価値があります。

参考文献
■ラルス・ミューラー「急進的・機能的・構成的:ノイエ・グラーフィク1958-1965」
■佐賀一郎「ノイエ・グラーフィクと日本」

Neue Grafik
Lars Müller Publishers
1184 pages (reprints), 64 pages (commentary)
Facsimile reprint of all 18 issues published, with commentary
Paperback volumes in a slipcase
25 x 28 cm
ISBN 978-3-03778-411-2
2014

Johan van der Keuken / Mise au jour

Added on by Yusuke Nakajima.

オランダの映像作家/写真家のJohan van der Keuken(ヨハン・ファン・デル・クーケン、1938-2001)は17歳の時、写真集[wij zijn 17(オランダ語で[We are 17]という意味)]で鮮烈なデビューを果たします。
その後、[achter glas]、[Paris Motel]を続けて発表するものの、24歳の若さで映像作家へと転身します。
60年近く経った現代でもなお観る者を魅了する作品を生み出していながらも、実に寡作の写真家と言えるでしょう。

クーケンは何気ない営みのなかで垣間見えるほんの一瞬の出来事を捉えることに長けていました。
まるで映画のワンシーンを収めたかのような被写体の自然な姿に、日常はこんなにもドラマチックなのかと感心させられます。

本書はウィレム・ファン・ゾーテンダール(1950年ハーグ生まれ)によって編集・デザインされました。
彼はグラフィックデザイナーですが、90年以降、自身の名を冠した出版社を通じてさまざまな写真集の制作に携わってきました。
加えて、オランダが誇る名門のヘリット・リートフェルト・アカデミーで教鞭を執るほか、世界中で写真展のキュレーションの経験を重ねるなど、その活動は多岐に渡ります。まさに現代写真界における重鎮と言えるでしょう。

また、ゾーテンダールは、クーケンの元妻であり、現在はゾーテンダールとパートナーシップを組んでいるノシュカ・ファン・デル・レリーとともにクーケンの遺産を管理していることもあり、自身の出版活動の一環としてクーケンのアーカイブシリーズを手がけています。

その第3弾にあたる本書のタイトル[Mise au jour]には、「光をもたらす」「掘り当てる」あるいは「アップデートする」という意味があります。
収録されている45点の作品は、その大半がこれまで未発表だったもので、いずれも1956-1982年にフランス・スペイン・イタリア・オランダ・ギリシャ・アメリカと世界各国を訪れ、小型カメラのライカM3で撮影されました。
映像作家となっても、人々の些細な表情の変化や興味深い情景に向けるまなざしは変わりません。
ほんの少しのユーモアを交えながら、見事なまでに詩的で美しい写真表現へと昇華しています。

Johan van der Keuken / Mise au jour
Van Zoetendaal Publishers
112 Pages
Paperback with foldings
21.6 x 33 cm
ISBN 978-90-72532-27-5
Edition of 750 copies
2015
※近日入荷予定/予約受付中

Walter Niedermayr / Recollection

Added on by Yusuke Nakajima.

写真家Walter Niedermayr(ウォルター・ニーダーマイヤー、1952年イタリア生まれ)の作品を説明するとき、
ハイキー(露出オーバー)というキーワードは外せません。

彼は雪山のランドスケープやインフラといった壮大なスケールの被写体を捉えていますが、
真っ白い情景のなかに人物や建築物などが点在する様子は、浮世離れした独特の雰囲気が漂います。

また、建築写真にも定評があり、日本では建築家ユニットの妹島和世+西澤立衛/SANAAの建築物を撮影することでも知られています。
なかでも彼らの代表作である金沢21世紀美術館を撮影したシリーズは、これまで出版された彼の写真集にも収録されています。

 

本書は、彼が2005年と2008年の二度に渡り、イランのテヘラン・イスファハン・ヤズド・シーラーズなどの小都市や歴史的な場所を訪れたプロジェクトをまとめたものです。
文化的・歴史的な文脈を踏まえつつ、イランの現代建築をあらゆる観点から捉えた風景写真は、
異国に実在するあるがままの景色をより印象深い情景として映し出しています。

本書の制作にあたり、グラフィックデザイナーと出版社との密なコラボレーションワークも見逃せません。

グラフィックデザインは、メーフィス&ファン・ドゥールセンによるもの。
彼らはオランダのアムステルダムを拠点にする2人組のユニットで、主にアートブックや展覧会カタログといったビジュアルブックのデザインを数多く手がけていますが、
その目覚ましい活躍は同年代のデザイナーの中でも抜きん出ており、多方面から絶大な信頼を得ています。

気鋭の現代写真家とデザイナー、そしてあらゆるクリエイティブな領域のアートブックに特化した出版社との競演により、出来映えのいい1冊に仕上がっています。

Walter Niedermayr / Recollection
Hatje Cantz
170 Pages
Hardcover
26.1 x 30.2 cm
English and German
ISBN 978-3-7757-2738-9
2010

Henri Cartier-Bresson / The Decisive Moment

Added on by Yusuke Nakajima.

「決定的瞬間」という、一般的にも多用されるこの言葉は、
フランスの写真家であるHenri Cartier-Bresson(アンリ・カルティエ=ブレッソン、1908-2004)の写真集のタイトルとしてもよく知られています。

初版は1952年に発行されたものの、長らく絶版の状態が続いていましたが、
半世紀を超えた2014年末、幻の一冊がドイツのSteidl社より初めて再版されました。
初版のグラビア印刷の風合いを、現代のオフセット印刷の技術を駆使して忠実に再現しています。
収録されている作品はもちろん、同じくフランスの画家であるアンリ・マティスによるコラージュが印象的な表紙デザインも健在です。

贅沢な仕様のスリーブから出し、大きな判型の写真集を開いてみれば、そこにはブレッソンが捉えた「決定的瞬間」の集大成が並びます。
なかでも最も有名な作品『サン=ラザール駅裏』は、人が水たまりを飛び越える瞬間を捉えていますが、これぞ彼の真骨頂ではないでしょうか。

街に繰り出しては「決定的瞬間」を逃すまいと常に小型カメラを構えていたブレッソン。
場を演出して撮影したのでは決して捉えることのできない、スリルのある臨場感や現場での奇跡的な邂逅は類稀な瞬発力があってこそのものですが、余分な被写体や空間が存在しないということももうひとつの大きな特徴です。
これは彼に絵画の教養があったことが影響しています。
ただ気の赴くままに写真を撮り収めたのではなく、構図に対して極めて慎重であったがゆえに成立する作品なのです。

身体感覚を伴う写真という表現の特性とも見事に調和したこれらの作品群は、20世紀の写真界におけるマイルストーン(標石)と言っても過言ではないでしょう。

 

Henri Cartier-Bresson / The Decisive Moment
Steidl
160 + 48 booklet Pages
Clothbound in slipcase
27.4 x 37 cm
English
ISBN 978-3-86930-788-6
12/2014

Andy Warhol / EARLY HAND-PAINTED WORKS

Added on by Yusuke Nakajima.

20世紀を代表するアーティストであり、アメリカ・ポップアートの第一人者として知られるAndy Warhol(アンディ・ウォーホル、1928-1987)。
日本では、2014年2〜5月に森美術館で開催された大規模な個展が記憶に新しいのではないでしょうか。

本書は、2005年にニューヨークのGagosian Galleryで開催されたウォーホルの展覧会にあわせて出版されたカタログです。
分厚いボール紙にモノトーンで描かれたコカ・コーラのボトルが配された表紙は、一目見て彼の作品集とわかる潔さとインパクトで目を引きます。

1960年代初頭に発表されたシルクスクリーン・ペインティングの作品群といえば、キャンベル・スープの缶など既製品を描いたものが有名です。
具体的なプロセスとしては、印刷されたイメージをトレーシングペーパーに写し、それをキャンバスや麻布、紙などの表面に描きます。
そのトレースされたイメージはアクリル絵の具などで着色され、より軽快さを帯びてあらわれてきます。
中身にしても、ただ作品がそのまま印刷されているのではなく、別紙に印刷された図版が大きく貼り込まれているのが特徴的です。
まるでエフェメラ(フライヤーなど)を丁寧にスクラップしているかのような凝った造本により、ページをめくるごとに高揚します。

本書には、作品とともにモノクロで写されたウォーホルのポートレイト写真が収録されています。
ともにこの時代を牽引してきたロイ・リキテンシュタインやロバート・ラウシェンバーグと肩を並べたオフショットは、当時の空気感をありありと写し出していてとても感慨深いです。
また、ポップアートを一躍有名にした美術商のイヴァン・カープとの対談も見逃せません。

大量生産される消費材をモチーフにした作品群は鑑賞者側からするとあまりにも既視感がありますが、
彼の最も勢いのある時代の作品をストレートかつ印象深く編集した本書は完成度が高く、
一度手に取って目を通してみると、不思議とぜひとも手元に置いておきたいという気持ちが募ります。

 

Andy Warhol / EARLY HAND-PAINTED WORKS
Gagosian
24.8 x 28.6 cm
English
ISBN 978-1-932598-21-9
2005

The Little Black Jacket: Chanel´s Classic Revisited

Added on by Yusuke Nakajima.
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本書は、カール・ラガーフェルドとカリーヌ・ロワトフェルドによって、シャネルの伝説的なアイコンであるリトルブラックジャケットを再演出したもの。
ラガーフェルドはジャケットを新しくデザインし、モダンで、どの年代の男女にも羽織れるようにした。

ラガーフェルドによるジャケットを羽織ったセレブの写真が多数収録されており、それはクラシック調もあれば中には不遜な着こなしもあるが、いつでもシャネルはシャネルだ。スタイリングは全てカリーヌ・ロワトフェルドによって手がけられている。

本書は、ラガーフェルドの手中にあるシャネルの素晴らしいヴィジョンを写し出し、永遠に愛され続けるリトルブラックジャケットを保証する。

21のセレブリティのショットを新規追加した改訂版。

 

STEIDL 2014年7月発行 ソフトカバー/スリーブケース付 280ページ

 

This book is Karl Lagerfeld and Carine Roitfeld’s reinterpretation of Chanel’s iconic little black jacket. Lagerfeld has redesigned the jacket, transforming it into a modern, adaptable garment to be worn by both sexes of all ages. The Little Black Jacket contains Lagerfeld’s photographs of celebrities wearing the jacket with individual flair – sometimes classic, sometimes irreverent, but always Chanel – and each styled by Carine Roitfeld. A range of accomplished actors, musicians, designers, models, writers and directors gets the little black jacket treatment, including Claudia Schiffer, Uma Thurman, Kanye West, Tilda Swinton, Baptiste Giabiconi, Yoko Ono and Sarah Jessica Parker. This book shows the astounding versatility of Chanel’s vision in Lagerfeld’s hands, and ensures the little black jacket’s future as a timeless classic.

John Cohen: Here and Gone - Bob Dylan, Woody Guthrie & the 1960s

Added on by Yusuke Nakajima.

ジョン・コーエンは、フォーク音楽復活の代表として尊敬されているニュー・ロスト・シティ・ランブラーズ(New Lost City Ramblers)の創設メンバーの一人。
1960年代では、晩年のウディ・ガスリー、そしてニューヨークに着いたばかりのボブ・ディランを撮りました。
同じアメリカ音楽界でも、別々の道を歩んだ二人。コーエンは、アメリカンフォークの歴史上最も素晴らしい瞬間を描写したといえます。

本書は、1960年代における様々なイメージを含み、
その中にはワシントン・スクエアとグリーンウィッチ・ヴィレッジのマクドゥーガル・ストリートでの音楽シーンや、ジェリー・ガルシアとサンフランシスコの「ファミリー・ドッグ」演奏者の写真、さらにはサイケデリックな「スカイ・リバー・ロック」フェスティバルの様子もおさめられています。
1970年、ディランから「一区(1ブロック)先から写真が撮れるカメラ」で自身のカラーポートレートが撮れないかとの提案を受け、後にその写真でコーエンは有名になります。
ニューヨークの街中や北部の農場で気づかれずに歩き続けるこれらの写真は、ディランのアルバム「Self Portrait(セルフ・ポートレート)」で使われました。

STEIDL 2014年6月発行 ハードカバー 152ページ

 

ohn Cohen was a founding member of the New Lost City Ramblers, one of the folk revival’s most authentic and respected musical groups. In the 1960s he made a series of photographs of the last years of Woody Guthrie’s life, and early portraits of Bob Dylan on his arrival in New York, depicting two titans of American music at opposite ends of their careers. In the process, Cohen portrayed one of the great moments of American folk music history.

The book contains other images from the 1960s including the music scenes at Washington Square and on MacDougal Street in Greenwich Village, images of Jerry Garcia and the musicians in San Francisco’s “Family Dog,” as well as the psychedelic “Sky River Rock” festival.

In 1970, Dylan requested Cohen make another set of color photographs of him with a “camera that could take photographs from a block away.” By then, he had become world-famous. Bob was seen walking unrecognized on the streets of the city and at a farm in upstate NY. The photographs were used in Dylan’s album “Self Portrait".

Bruce Davidson: England / Scotland 1960

Added on by Yusuke Nakajima.

2005年初版の本書は、ブルース・デイビットソン自身によってフォーマットされ、Steidlで同じく出版されたBlack & White (2012)にあわせて制作されたもの。

1960年、ブルックリンの悪名高いストリートギャング[The Jokers]を撮り続けたデイビットソンは、その一年間の憂鬱から抜け出す決心をします。
彼はその後、撮影中だったジョン・ヒューストンの作品[The Misfits]に主演していたマリリン・モンローの撮影をネバダで依頼され、Queen Magazineの依頼でロンドンへと旅をしました。
ジョセリン・スティーブンスによって出版された本書は、デイビットソンが英国ライフスタイルに献身的であるQueenから、特別な題目を与えられることなく、数ヶ月イングランドとスコットランドを旅行ながら撮影をし、二国の視覚的なポートレート集を依頼されたことにはじまりました。
1960年代を代表する革命が起こる以前に撮られた彼の写真は、都市と田舎の生活における極端性、定着した人々の高貴性など、2つの国における違いから生まれる社会を明らかにし、イングランドとスコットランド文化の核心を詩的に捉えています。

STEIDL 2014年6月発行 ハードカバー(クロス装丁) 144ページ

 

Bruce Davidson: England / Scotland 1960

 In 1960, after an intense year photographing a notorious Brooklyn street gang “The Jokers”, Bruce Davidson decided to remove himself from the tension and depression of that work. He received an assignment to photograph Marilyn Monroe during the making of John Houston’s The Misfits in the Nevada desert, and then travelled to London on commission for Queen magazine. Published by Jocelyn Stevens, Queen was devoted to British lifestyle and Davidson was charged, with no specific agenda, to spend a couple of months touring England and Scotland to create a visual portrait of the two countries.

England / Scotland 1960 offers a poetic insight into the heart of English and Scottish cultures. Reflecting a post-war era in which the revolutions of the 1960s had not quite yet entered the mainstream, Davidson’s photographs reveal societies driven by difference – the extremes of city and country life, of the landed gentry and the common people. Published for the first time in its entirety in 2005, this new edition has a larger ideal format chosen by Davidson initially for his Black & White (2012), and now the standard size for his future publications with Steidl.

Gautier Deblonde: Atelier

Added on by Yusuke Nakajima.

ゴー ティエは、アメリカ、ヨーロッパ、そしてアジアにおける芸術家のスタジオをこれまで八年間撮影してきました。彼は、スタジオそのものを対象視しており、芸術家本人が存在しなくても、創造が形作られている足跡を追うことができるその空間を撮影しています。未完成の彫刻で埋められた空間や絵の具の筆が散らばった床、また、興味深い材料が並ぶ棚など、ドキュメンタリー写真として、彼の写真はディテールが豊富に写されています。これらの空間に芸術家は一切写っていませんが、彼らの存在がどことなく感じられ、どの道具にも魔法が潜み、手に取ってもらうのを待っているかのようです。アトリエに一人取り残され、時間が止まったような錯覚を得ます。「Atelier」では、創造の場の背景にあるものを垣間見ることができ、70ものスタジオがパノラマで撮られ、中にはGeorge BaselitzやAi Weiweiのプライベートな空間も入っています。念入りに撮られた本作は、見る者にスタジオという空間を学ぶ機会を与え、そしてその空間が生き返る様子を想像させてくれます。

アーティストは、エド・ルシャ、ダミアン・ハースト、杉本博司、ウォルフガング・ティルマンス、リチャード・セラ、アニッシュ・カプーア、レイチェル・ホワイトリード....と、丁寧にこのプロジェクトを進めていく事でようやく実現した事が伺える豪華な顔ぶれが総勢70名のアトリエを収録しています。


STEIDL 2014年5月発行 ハードカバー 39.3 x 32.4 x 3 cm 176ページ


Gautier Deblonde: Atelier

Gautier Deblonde has photographed artists’ studios in America, Europe, and Asia for the past eight years. He is particularly drawn to the studio as a subject, capturing the work in progress with all the traces of creation, but without the artists themselves. As documentary photographs, the images are rich in detail—full of sculptures half finished, brushes scattered on the floor, and shelves of inspirational material. Though the artists are conspicuously absent, there’s a lingering sense of their presence, as if magic lies in every tool, waiting to be brought to life. Left alone in the space, it feels as if time stops.
Atelier provides a privileged glimpse behind the scenes to the source of artistic creation. Seventy studios have been captured in panorama, including the private spaces of Georg Baselitz, Wim Delvoye, and Ai Weiwei among others. Photographed methodically, the compositions appear together as a meditative study on the studio, leaving the viewer to interpret the artist’s intention and imagine the space come to life.

Saul Leiter: Early Black and White

Added on by Yusuke Nakajima.

ソール・ライターの独特な白黒写真は、1940、50年代におけるニューヨークのダイナミックなストリートライフに対する深い理解を基盤としています。フォトドキュメンタリーの技術を活用する側面がありながらも、彼の写真は自身が出会った人や場所に形作られています。カメラを持った魔術的な現実主義者のように、彼はニューヨークの持つ奇妙さと痛烈な人間の経験を吸収しました。
同じく
Steidlから出版された初期のカラー写真と同様に、本作の白黒作品は彼の初期作品の素晴らしい変化を見ることができます。

STEIDL 2014年6月発行 ハードカバー、スリップケース付き 2冊組 21.4 x 21 x 5.2 cm 201図版(2冊合計)

 

Saul Leiter: Early Black and White

 The distinctive iconography of Saul Leiter’s early black and white photographs stems from his profound response to the dynamic street life of New York City in the late 1940s and 50s. While this technique borrowed aspects of the photodocumentary, Leiter’s imagery was more shaped by his highly individual reactions to the people and places he encountered. Like a Magic Realist with a camera, Leiter absorbed the mystery of the city and poignant human experiences. Together with Early Color, also published by Steidl, Early Black and White shows the impressive range of Leiter’s early photography.