ANIMAL by Stephanie Quayle

Added on by Yusuke Nakajima.

本書は、1982年イギリス・マン島生まれのStephanie Quayle(ステファニー・クエール)の初めての作品集です。
2014年11月に開催された、POSTでは2度目となるステファニーの個展にあわせて出版されました。

ステファニーは、セラミックで動物の彫刻作品を制作しています。
動物、そして動物の持つ天性に焦点をあてた彼女の作品は荒削りで生命力にあふれ、それは単なる動物のイメージの再現ではなく、あたかも命が宿されているかのように感じずにはいられません。

2012年春にオープンしたドーバー ストリート マーケット ギンザの1Fに、部屋を埋め尽くすほど巨大な白い象が展示されましたが、これも彼女の作品です。
この象は他のクリエイターたちとユーモアに富んだコラボレーションを重ねていて、その都度話題となっています。

彼女が生まれ育ったマン島には雄大な自然が存在し、そこで暮らす人々もおおらかな気質だといいます。
また、実家が農場ということもあり、幼少の頃から動物たちと親しんで成長してきました。
彼女自身が自然界と直接的な関わりを持っていることが、結果として動物たちに対する深い理解を生み出すことに繋がっています。

その素晴らしい環境を一度離れ、学生時代はロンドンで過ごしました。世界的にも最高峰の機関で彫刻の専門教育を受けたことは、技術面において彼女の作品の完成度を高めることに一役買っています。
10年ほど続いたロンドンでの生活を経て、再びマン島へと拠点を戻しました。


2014年6月、POSTでは彼女の展覧会が開催されました。
作品数こそ少なかったのですが、会場には連日多くの来場者が足を運んでくれました。
そのときに展示された作品や会場風景も本書に収録されています。

同年9〜10月には、信楽にある志賀県立陶芸の森で滞在制作を経験しました。
マン島のスタジオにある電気窯よりも4倍ほど大きいガス窯、そして薪 を火にくべて焼成する薪窯を使った制作は、実験と検証の繰り返しでした。いつも使用する土とは異なる性質の土による制作に向けて、テストピースで焼き具合 を確かめては、作品にも実用できるのかを検討します。
滞在を通じて、ニホンザルやシカといった日本ならではの動物をみれたことは大きな糧となりました。
信楽で制作された作品はサルやシカが多いことも、そのことがよく反映されています。

同じくアーティストとして活動する、彼女のパートナーであるダレンや施設スタッフたちの献身的な協力に支えられた制作でしたが、慣れない環境で試行錯誤をしたこともありました。とりわけ湿度の高い日本の残暑には驚きを隠せなかったようです。
また、思わぬところで制作が難航する場面もありました。この時期、信楽では大雨が続き、窯に入れる前の粘土が乾きづらかったらしく、その分制作スケジュールは後ろ倒しになり、結局滞在最終日に窯出しすることになりました。

こうして信楽で制作された新作は、同年11月に再びPOSTの個展でお披露目となりました。
彫刻作品はもちろん、彫刻を制作する前段階に手がける、躍動感のあるペーパードローイング作品や、陶板や木板を支持体にした平面作品も展示されました。

造本という観点からみても、彼女らしさが存分にあらわれた作品集に仕上がっています。
初めての作品集ということを意識し、重厚感のあるつくりではなく、ノートブックのような軽やかなたたずまいをしています。紙の質や色合いも、彼女の作品の要素を抽出したうえで選定されています。
また、滞在制作のドキュメントという位置づけもあるため、スタジオでの制作風景といったより臨場感のあるショットが満載です。
作品写真だけではなく、彼女へのインタビューや陶芸作家・桝本佳子さんとの対談も収録、見応え・読み応えともに充実した内容になっています。

 

ANIMAL by Stephanie Quayle
Published by aty inc.
Distributed by limArt
144 Pages
Staple binding
18.2 x 25.7 cm
ISBN 978-4-9907173-4-6
Edition of 1,000 copies
2014