Neue Grafik

Added on by Yusuke Nakajima.

ノイエ・グラーフィク(ドイツ語で「ニュー・グラフィック・デザイン」の意味)は、第二次世界大戦後の1950年代後半にスイスで発行された伝説的なデザイン雑誌です。

本誌は、1950年代のスイスにおけるモダン・グラフィックデザインの潮流を汲むことを目的とし、リヒャルト・パウル・ローゼ(1902-1988)、ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン(1914-1996)、ハンス・ノイブルク(1904-1983)、カルロ・ヴィヴァレリ(1919-1986)の4人のデザイナーにより1958年に創刊されました。
彼らは主観的表現から離れ、より抽象性の高い機能主義的・客観的な思考に基づく視覚伝達を推進しました。
幾何学的形態さえをも排し、文字造形だけを利用したタイポグラフィックな構成が多用されたほか、誌面のレイアウトにも構成的要素が重視されています。
雑誌の方向性としては、ただ構成的デザインの良否を問うものではなく、良い事例を取り上げることに専念しています。
明晰な論調で展開される分析を添えながら、その当時のデザイン動向を伝えるという立ち位置に徹していたのです。

編集者たちは、この雑誌が新しいグラフィックデザインにおける国際的な議論の場として機能することを望みましたが、実際掲載されたデザイン事例のほとんどがスイスのものでした。
しかし、そのことが却ってスイスで新しいデザインの潮流が生じていることを強烈に印象づけることに繋がりました。
構成的客観性のある「スイス・スタイル」は広い視野をもって国境を超えて波及していくだけの底力があり、こうした機運の高まりを受けて創刊に至りました。

彼らが純粋な心持ちでデザインの将来像と向き合うことができたのは、スイスが永世中立国であったことも無縁ではないでしょう。
戦渦からの復興にあえぐ他諸国の置かれた状況とは一線を画する平和的な国情に後押しされて、グラフィックデザイナーは一個の独立した存在であるという自負を胸に、「新しい視覚伝達」を世界に向けて発信していきました。
1950年代から60年代はまさに「新しさ」に対する希求が世界的にも充満していたこともあり、「新しい視覚伝達」こそが前進的な道標となったのです。

編集者たちの高い理想や情熱に支えられたポジティブな展望とは裏腹に、売上や定期購読者は伸び悩み、経済的な状況は芳しくない状態が続いていました。
これに加えて、4人それぞれが個人単位での活動が精力的になったことも相まって本誌の遂行が阻まれ、結局創刊から7年となる1965年、通巻17号(最終号は17/18号合併号)でその幕を閉じることになりました。

とはいえ、彼らの進歩的な取り組みは確実に次世代へ影響を及ぼしていたと断言できます。特にグラフィックデザインに関しては啓蒙的性格のある日本での浸透は著しいものです。
ミューラー=ブロックマンが1960年に東京で開催された世界デザイン会議を契機として以後数年にわたり来日を重ねて、講演や本誌の宣伝を行ったことは決定打となりました。
焼け野原からの再起を遂げた戦後日本のグラフィックデザインが進むべき方向を見出そうとするときに、本誌は頼もしい羅針盤となりました。

今もなお国際的に歴史的影響力を持つ本誌のオリジナル版は、希少性の高さから価格が高騰し入手困難の状態が続いていました。
この幻の雑誌が、2014年にスイスの出版社・Lars Müller Publishers(ラース・ミュラー・パブリッシャーズ)より全号を網羅した復刻版として刊行されました。
オリジナルを忠実に再現され、ボックスケースに収められた完全版は、コレクターならずとも一見の価値があります。

参考文献
■ラルス・ミューラー「急進的・機能的・構成的:ノイエ・グラーフィク1958-1965」
■佐賀一郎「ノイエ・グラーフィクと日本」

Neue Grafik
Lars Müller Publishers
1184 pages (reprints), 64 pages (commentary)
Facsimile reprint of all 18 issues published, with commentary
Paperback volumes in a slipcase
25 x 28 cm
ISBN 978-3-03778-411-2
2014