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Mevis & Van Deursen / Recollected work

Added on by Yusuke Nakajima.

本書は、現在開催中のSPOTで特集しているオランダのデザインデュオ、Mevis & Van Deursen(メーフィス&ファン・ドゥールセン)が、1988年から2005年にかけてデザインした仕事をまとめた作品集です。

 

紙媒体のデザインを数多く手がけてきた彼らが、自身の作品集を作るにあたり「三次元的な経験を伴う紙媒体のデザインを複写によって収録しても意味がない」という考えに至りました。
これに基づき、これまでに手がけたさまざまなデザインをコラージュのように重ねて再構成し、過去の作品によって全く新しい1冊の作品集を作り出したのです。

 


ページ構成にも彼らなりの緻密さがよく表れていて、単にアートワークを羅列しているわけではなく、それぞれの欄外にはインデックスが付され、巻末のクレジット一覧と対応しています。
アーカイブという役割を全うし、作品集としての完成度を高めています。

本書によって初めて展開された新たな視覚体験は、単なるアーカイブとしての作品集から一歩抜きん出た意義深いものとなりました。
徹底した姿勢で制作した結果、内容の充実と研ぎすまされたグラフィックワークを見事に両立しています。

本という三次元を伴うメディアに対する、彼らの考え方が明確に表現された1冊です。

 

 

Mevis & Van Deursen / Recollected work
ARTIMO
205 Pages
soft cover
offset printing
20.5 x 27.5 cm
ISBN: 978-90-8546-031-X
2005
価格:16,000円 +税

Aglaia Konrad / Desert Cities

Added on by Yusuke Nakajima.

Aglaia Konrad(アグライア・コンラッド、1960年オーストリア・ザルツブルク生まれ)は、現在はベルギー・ブリュッセルに拠点を構え、写真に主軸を置くアーティスト。以前はオランダ・マーストリヒトのヤン・ファン・エイク・アカデミーで指導にあたり、現在はブリュッセルで教鞭を執っています。
彼女は主に欧米で個展を開催するほか、ドクメンタX(1997年)を始めとする国際的なグループ展にも参加しており、日本には2010年にトーキョーワンダーサイトでアーティスト・イン・レジデンスで滞在していました。

「大都会の都市空間」というのは、彼女の作品の中核をなすものです。1990年以降には、異なった大陸にある巨大な都市の多様性における、戦後の都市の景観やそこのあらゆる兆候を調査してきました。

1992年にエジプト・カイロでの短い滞在のなかで、彼女は「Desert Cities(砂漠の都市)」の存在を知り、後に長期間に渡るプロジェクトへ発展することになるこの都市の、とてつもないスケールに興味を引きつけられました。そして、社会地理的・政治的な観点から、環境の変化によって引き起こされる多くの疑問に向き合うために「Desert Cities」プロジェクトを立ち上げることになりました。

モノクロ写真とカラー写真を織り交ぜながら、何もない砂地に建造物が立ち並び、道路が敷設され、あたかも砂漠のオアシスのように都市が形成されていく過程を追っていきます。建造物の外観からは、装飾を排したモダニズム 建築の系譜が伺えるのですが、ほとんどひと気のない都市に突如あらわれる建造物はまるでブロックのおもちゃのような佇まいで、浮世離れした色彩も相まって気味な印象を与えます。
外来の模範と土地特有の要素、建造物と遺跡、現代性と伝統。相反するものの狭間で行われる対話にフォーカスを当てていくと、砂漠の都市がいくら変貌を遂げたとしても、結果として世界中にありふれた景観が生まれているという逆説的な現実を突きつけられます。
クラシックな建築写真でもドキュメンタリー・フォトでもないアプローチで、アーティストとして長い年月をかけて何度も現地に赴き、めまぐるしく変化を遂げる都市の姿を目の当たりにした者としての視点が、本書を通じて浮き彫りになることでしょう。

印刷された紙の選出からは、デザイナーのMevis & Van Deursen(メーフィス&ファン・ドゥールセン)によるデザイン的に優れた采配が見て取れます。一面は写真プリントのように光沢があり、多くの読者にとって遠く離れた異国の情景を鮮明に描写しています。そうかと思えば、ページをめくった裏面はザラザラとした紙になっていて、まるで砂漠の砂埃を連想させる。異なった紙質の反復が、砂漠の都市の現状をあらわすための相乗効果を生み出しているのです。

Aglaia Konrad / Desert Cities
JRP|Ringier
236 Pages
Images 83 color / 94 b/w
Softcover
230 x 310 mm

English
ISBN: 978-3-905829-59-4
2008

Ryan Gander / Heralded as the New Black

Added on by Yusuke Nakajima.

本書は、イギリスのアーティスト、Ryan Gander(ライアン・ガンダー)の作品集です。
2008年にイギリス・バーミンガムのイコンギャラリーののち、サウス・ロンドン・ギャラリーへと巡回した彼の個展にあわせて制作されました。

彼は持ち前の「収集癖の素養」で、過去に存在した歴史的・文化的な関連性や他のアーティストの作品の要素を変容させ、新しい表現へと適応させることに長けています。鑑賞者と作品との対話を願い、その実現のために美術史や映画撮影、物語の構造を駆使して制作を進めていきます。
とはいえ、作品の背景にあるストーリを決して明かさず、作品自体が説明をすることもありません。鑑賞者が各々それらを繋げ合わせることで成立させるように促し、一見異なる要素をあらゆる方法によって組み合わせることによって、新たな文脈や意味をもたらします。

こうしたコンセプチュアルな作風は、ともすると難解な印象を与え、図らずも敷居が高いと敬遠されてしまうことになりかねません。そうした障壁を払拭するために、本書では非常に興味深いデザインアプローチが採用されています。
その手法とは、全ての図版ページを観音開きにし、観音が閉じられた状態では作品の説明文のみが記され、観音を開くと作品図版が表れるという仕組みです。終始このスタイルで一貫して展開されるコンテンツは、バラエティに富む各々の作品を端正にまとめあげることに成功しています。
単に外見的な理由だけで奇抜な造本にしているわけではなく、その根底には「より的確に視覚伝達をする」という狙いが存在していることは特筆すべき点です。その結果、機能と美しいデザインとを兼ね備える完成度の高い作品集が完成しました。

Ryan Gander / Heralded as the New Black
Ikon Gallery
137 Pages
21 x 29.4 cm
English
ISBN: 978-1904864370
2008

Walter Niedermayr, HG Merz / "Station Z": Memorial Sachsenhausen

Added on by Yusuke Nakajima.

20世紀前半は、2度に渡る世界大戦が象徴するように、残忍な行為の絶えない時代でした。
特に悪名高いのは、ヒトラー率いるナチスの無慈悲な振る舞い。ヨーロッパ各地に強制収容所を設け、戦時中にはその壁の内側で被収容者に対する非道な行為を施していきます。

ドイツ・ベルリン北部に設置されたザクセンハウゼン強制収容所の跡地には、追悼の意を込めて記念施設・博物館があります。
その中心に位置するのが、SS(ナチス親衛隊)によって使用されていた[Station Z]と呼ばれる火葬場です。

廃墟となったこの土地に、ドイツの建築家HGメルツ(1947年生まれ)が抽象的な防護施設を設計し、1998年から2005年にかけて建設されました。
この建築物は、かつての火葬場からそのまま残されていた基礎を保護する、また訪問者に黙想の場を提供するという目的のもとに手がけられました。
半透明なシェル形状の内部空間にフォーカスすることで、囚人たちの絶望的な状況を例証しています。

日本の建築事務所SANAAの手がけた建築を被写体にして、その構造に対する巧みかつユニークな解釈を提示したことで評価の高い、イタリアの写真家Walter Niedermayr(ウォルター・ニーダーマイヤー、1952年生まれ)。
彼は決して華々しさはないが極めて印象的な方法で、この場所の悲痛や歴史的な記憶を写真を通じて描写しています。

全てのビジュアルが観音開きの状態で収録されている装丁からも、隠蔽されていた無惨な出来事のその裏側を紐解き、しっかりと見つめていくような緊張感が演出されています。
ニーダーマイヤーならではのハイキートーンと薄曇りの空が相まって、現代の情景にも拘らず半世紀以上前に刻まれた追憶と重なるような不思議な感覚が芽生えてきます。

本書のプロローグとして、1995年に当強制収容所の解放50周年を記念して行われた、ポーランドの作家で、以前この被収容者であったAndrzej Szczypiorskiによるスピーチが収録されています。また、HGメルツによるエピローグは、この設備の歴史や過去数々の受賞歴のある今日の建築物についての見解が述べられています。

Walter Niedermayr, HG Merz / "Station Z": Memorial Sachsenhausen
Hatje Cantz
64 Pages
Softcover
25.8 x 33.6 cm
German, English, Polish
ISBN 978-3-7757-2397-8
2009

Walter Niedermayr / Recollection

Added on by Yusuke Nakajima.

写真家Walter Niedermayr(ウォルター・ニーダーマイヤー、1952年イタリア生まれ)の作品を説明するとき、
ハイキー(露出オーバー)というキーワードは外せません。

彼は雪山のランドスケープやインフラといった壮大なスケールの被写体を捉えていますが、
真っ白い情景のなかに人物や建築物などが点在する様子は、浮世離れした独特の雰囲気が漂います。

また、建築写真にも定評があり、日本では建築家ユニットの妹島和世+西澤立衛/SANAAの建築物を撮影することでも知られています。
なかでも彼らの代表作である金沢21世紀美術館を撮影したシリーズは、これまで出版された彼の写真集にも収録されています。

 

本書は、彼が2005年と2008年の二度に渡り、イランのテヘラン・イスファハン・ヤズド・シーラーズなどの小都市や歴史的な場所を訪れたプロジェクトをまとめたものです。
文化的・歴史的な文脈を踏まえつつ、イランの現代建築をあらゆる観点から捉えた風景写真は、
異国に実在するあるがままの景色をより印象深い情景として映し出しています。

本書の制作にあたり、グラフィックデザイナーと出版社との密なコラボレーションワークも見逃せません。

グラフィックデザインは、メーフィス&ファン・ドゥールセンによるもの。
彼らはオランダのアムステルダムを拠点にする2人組のユニットで、主にアートブックや展覧会カタログといったビジュアルブックのデザインを数多く手がけていますが、
その目覚ましい活躍は同年代のデザイナーの中でも抜きん出ており、多方面から絶大な信頼を得ています。

気鋭の現代写真家とデザイナー、そしてあらゆるクリエイティブな領域のアートブックに特化した出版社との競演により、出来映えのいい1冊に仕上がっています。

Walter Niedermayr / Recollection
Hatje Cantz
170 Pages
Hardcover
26.1 x 30.2 cm
English and German
ISBN 978-3-7757-2738-9
2010