20世紀前半は、2度に渡る世界大戦が象徴するように、残忍な行為の絶えない時代でした。
特に悪名高いのは、ヒトラー率いるナチスの無慈悲な振る舞い。ヨーロッパ各地に強制収容所を設け、戦時中にはその壁の内側で被収容者に対する非道な行為を施していきます。
ドイツ・ベルリン北部に設置されたザクセンハウゼン強制収容所の跡地には、追悼の意を込めて記念施設・博物館があります。
その中心に位置するのが、SS(ナチス親衛隊)によって使用されていた[Station Z]と呼ばれる火葬場です。
廃墟となったこの土地に、ドイツの建築家HGメルツ(1947年生まれ)が抽象的な防護施設を設計し、1998年から2005年にかけて建設されました。
この建築物は、かつての火葬場からそのまま残されていた基礎を保護する、また訪問者に黙想の場を提供するという目的のもとに手がけられました。
半透明なシェル形状の内部空間にフォーカスすることで、囚人たちの絶望的な状況を例証しています。
日本の建築事務所SANAAの手がけた建築を被写体にして、その構造に対する巧みかつユニークな解釈を提示したことで評価の高い、イタリアの写真家Walter Niedermayr(ウォルター・ニーダーマイヤー、1952年生まれ)。
彼は決して華々しさはないが極めて印象的な方法で、この場所の悲痛や歴史的な記憶を写真を通じて描写しています。
全てのビジュアルが観音開きの状態で収録されている装丁からも、隠蔽されていた無惨な出来事のその裏側を紐解き、しっかりと見つめていくような緊張感が演出されています。
ニーダーマイヤーならではのハイキートーンと薄曇りの空が相まって、現代の情景にも拘らず半世紀以上前に刻まれた追憶と重なるような不思議な感覚が芽生えてきます。
本書のプロローグとして、1995年に当強制収容所の解放50周年を記念して行われた、ポーランドの作家で、以前この被収容者であったAndrzej Szczypiorskiによるスピーチが収録されています。また、HGメルツによるエピローグは、この設備の歴史や過去数々の受賞歴のある今日の建築物についての見解が述べられています。
Walter Niedermayr, HG Merz / "Station Z": Memorial Sachsenhausen
Hatje Cantz
64 Pages
Softcover
25.8 x 33.6 cm
German, English, Polish
ISBN 978-3-7757-2397-8
2009