本書は、イギリスのアーティスト、Ryan Gander(ライアン・ガンダー)の作品集です。
2008年にイギリス・バーミンガムのイコンギャラリーののち、サウス・ロンドン・ギャラリーへと巡回した彼の個展にあわせて制作されました。
彼は持ち前の「収集癖の素養」で、過去に存在した歴史的・文化的な関連性や他のアーティストの作品の要素を変容させ、新しい表現へと適応させることに長けています。鑑賞者と作品との対話を願い、その実現のために美術史や映画撮影、物語の構造を駆使して制作を進めていきます。
とはいえ、作品の背景にあるストーリを決して明かさず、作品自体が説明をすることもありません。鑑賞者が各々それらを繋げ合わせることで成立させるように促し、一見異なる要素をあらゆる方法によって組み合わせることによって、新たな文脈や意味をもたらします。
こうしたコンセプチュアルな作風は、ともすると難解な印象を与え、図らずも敷居が高いと敬遠されてしまうことになりかねません。そうした障壁を払拭するために、本書では非常に興味深いデザインアプローチが採用されています。
その手法とは、全ての図版ページを観音開きにし、観音が閉じられた状態では作品の説明文のみが記され、観音を開くと作品図版が表れるという仕組みです。終始このスタイルで一貫して展開されるコンテンツは、バラエティに富む各々の作品を端正にまとめあげることに成功しています。
単に外見的な理由だけで奇抜な造本にしているわけではなく、その根底には「より的確に視覚伝達をする」という狙いが存在していることは特筆すべき点です。その結果、機能と美しいデザインとを兼ね備える完成度の高い作品集が完成しました。
Ryan Gander / Heralded as the New Black
Ikon Gallery
137 Pages
21 x 29.4 cm
English
ISBN: 978-1904864370
2008