Annette Messager(アネット・メサジェ、1943年生まれ)は、フランスを代表するアーティストです。
ドイツ・カッセルで開催されるドクメンタをはじめとする名だたる国際展にも参加していますが、なかでも2005年の第51回ヴェネツィア・ビエンナーレにフランス館代表として出展した際には、金獅子賞を受賞しました。
2008年に東京・六本木の森美術館で、日本では初となる大規模な個展が開催されたことが記憶に残っている方もいるのではないでしょうか。
直近ですと、2015年には大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレへの参加が決まっています。
彼女は1970年代前半以降、本格的に作品の制作を始めました。写真、ドローイング、刺繍、動物のぬいぐるみ(剥製)など、日常的によく目にするようなあらゆる素材を巧みに織り交ぜて作品を構成していくインスタレーション作品で知られています。
物語性を帯びバリエーションに富んだ作風に見受けられますが、遊び心のある無邪気さと残酷さといった相反する要素が共存し、心をかき乱すような緊張感を孕んでいる点に共通項を見出すことができます。
本書は、2012年10月から2013年2月にかけてフランスで開催された、彼女の個展にあわせて出版されました。
ジョナサン・スウィフトによるガリヴァー旅行記の世界から間接的にインスパイアされて制作された本作は、SFやファンタジーを彷彿させるような表現で、一種の哲学的物語や政治的寓話のような現代世界が抱える悪を描写しています。
シリアスな緊張感は彼女の嘲笑に対する愛着や遊び心によって活性化され、鑑賞者へ幼少時代の世界を喚起させることでしょう。
趣向を凝らした造本も見逃せません。
腰のない紙を用いて袋とじ製本されたページに混じって、所々に油紙のような材質の薄い紙が挟まっています。この茶色い紙越しに、隣り合わせたページのビジュアルが朧げに透けてみえるようすは、彼女の作品が醸し出す不穏な心もとなさを物質的にも表現しており、本という形態で作品をみるときには非常に効果的な演出になっています。
Editions Xavier Barralは、研ぎ澄まされた美意識はもちろん、デザイン・編集の面での細やかな工夫の積み重ねにより「オブジェとしての本」を手がけていると自負していますが、そうした彼らの指針が端的に顕在化された1冊に仕上がっています。
参考文献
■ 森美術館 アネット・メサジェ:聖と俗の使者たち
Annette Messager / Continents noirs
Éditions Xavier Barral
96 Pages
295 × 242 mm
French / English
ISBN: 978-2-36511-011-2
2012