濱田祐史 作家ステートメント“BRANCH”(2015)
2015年3月18日。スイス、クランモンタナの滞在先の家から車で30分程行ったヴァロン・ド・ラ・チェーチェ(vallon de la Tièche)という山に登った。家主の方にちょっと裏山に登りませんか?と誘っていただき、私は甘く見て軽装で出かけた。すると、着いた先でスノーシューとストックを渡された。
そこは私の思う裏山とは違い、所謂雪山であった。ヴァレー州のそのあたりは川を挟んでたくさんの山が連なっていて、登山している最中にも向かいの山の一つにモンブランを見ることができた。その日は偶然なのかオフシーズンなのか全く人がいなかった。
そこがとても静寂に満ちていたからなのか空気の振動と自分の呼吸が聞こえてきた。山頂に向かう道中、雪の上にぽつりぽつりと”枝”が落ちているのが目に入った。枝は雪の中に少し沈み、見える部分と見えない部分を露わにしていて、その自然から生み出された抽象的なパターンはまるで落雷の稲光や落書きのようにも見えた。
枝と雪、これらの小さな要素から太陽から注がれてくる光、風、水や重力を想像し、私はこの世界のどこにでもありえる事物について思いを巡らせる。そして、すべての事物が避け難くも担っている秩序の中に存在しているように思えてくる。
木を見て、森を見ず。ということわざが日本にはある。
私はスイスの雪山に落ちていた枝から森の循環を垣間見た。
濱田祐史 hamadayuji.com
1979年大阪府生まれ、奈良県育ち。
2003年日本大学藝術学部写真学科卒業。出版社勤務後に独立。現在、東京を拠点に作品制作をしている。
昨年出版された”photograph”はAperture/Paris Photo First Photobook award 2014にノミネートされるなど国内外で作品を発表し続けている。
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フィリップ・フラニエール 作家ステートメント”KIGUMI”(2015) text by Aude Fellay
過ぎ去った時代に作られた木製の建材によって、日本の伝統的な建築物は組み立て、支えられてきた。日本の建築技法は、残り少ない名手たちによって今なお受け継がれている。彼ら大工たちは、戦後日本が急速な技術革新を目の当たりにする中で忘れてしまった「家づくり」の方法論と知識を受け継いでゆく。「KIGUMI」は、手彫りの立体素材とそれに向き合う機械的な「目」、その組み合わせの無限の可能性について探求する。
このシリーズは、木材が組まれる為に作られた突起や穴に焦点を当て、物質がかつて持っていた機能を示唆する。白色の背景の前で、同じ視点から個々に、システマティックに撮影されたイメージは、典型的なタイポロジー写真の伝統に則っている。しかし、日中の強い日差しが作り出す深い影は、被写体を全く新しい、幾何学の混合体に変化させた。木材と影、余白と質量のささやかな関係性が、独自の構造―それは抽象化された模様や、建築素材、もしくは想像上の彫刻となる-を作り出す。それは、物質が本来持っている三次元性を補完し、時に打ち消してゆく。
フィリップ・フラニエール philippefragniere.ch
1987年生まれ、スイス出身。ECAL美術専門学校卒業。卒業制作として制作した写真集「Snow Park(スノーパーク)」が写真集のアカデミー賞と称されるアメリカ大手出版社アパチャー社主催のアワード「Aperture Foundation First Photo Book Award 2014」のファイナリストに選出される。スイスのヴヴェイ市で開催されたビジュアルアーツフェスティバル「images(イメージズ)」に参加など、世界的に注目される若手新進気鋭の写真家の一人。