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Fernando Casasempere / ORBRAS WORKS 1991-2016

Added on by Yusuke Nakajima.

現在POSTで展覧会を開催している(会期:2017年3月11日~4月2日)、彫刻家のフェルナンド・カサセンペーレは、チリ・サンティアゴに生まれ育ち、1980年代にはバルセロナに渡って陶芸と彫刻を学びました。その後は一度生まれ故郷に戻り、チリや北米を中心に、国際的な活動を繰り広げていきました。1997年には作品の素材となる粘土を12トン以上も携えてロンドンに渡り、以後拠点を移して制作しています。

伝統的な陶磁器(セラミック)の技法で生み出されるカサセンペーレの作品からは、ラテンアメリカの景観を彷彿させるダイナミックなスケール感やその土地特有の空気感がよく伝わってきます。
芸術・文化が成熟したロンドンに身を置くことによって大いに刺激を受ける一方で、根幹にある作家としての原点をなす母国で培った要素が後ろ盾となり、作品の独創性だけでなく強度をも高めています。

彼自身のアイデンティティとともに見過ごすことができないもの、それは自然や生態系に対する深い関心でしょう。チリは世界一の銅産出量を誇り、産業発展において大きく寄与してきました。その一方で、深刻な環境破壊が進んでいたのも事実です。
彼の彫刻作品は、鉱山の採掘後に廃棄された土をベースとなる陶土に混ぜ込んだ粘土を素材として成形されています。まるで大理石のような硬質な印象を与えるセラミックの作品を通じて、人間のエゴが環境を破滅させてきた脅威に対して真っ向から対峙し、声高に訴えます。

2016年に出版された本書では、過去25年に及ぶ彼のキャリアを通じてその目覚ましい活動を包括的にみることができます。年代を追うような構成にすることで、時間の流れに沿って作家がどのような歩みを経てきたのかを捉えられることができます。

ざらつきのある布地をカバーに起用した重厚感のある装丁もまた、物理的な側面から彼の作品のプレゼンテーションを担っています。中面の写真イメージはページいっぱいにひろがっていて、まるで大きな作品群を目の当たりにしているかのような圧倒的な迫力があります。
本書のデザイナーであるマルゴーシャ・シェンバーグは、カサセンペーレの作家性や作品の真髄をよく汲み取り、持ち前のセンスと技術を惜しげもなく活用することで、丁寧に作品集をつくりあげました。
作家とデザイナーとが互いに敬意を払いながら、自らの職能を存分に活かして協働することによって編み出された、渾身の一作です。

Fernando Casasempere / ORBRAS WORKS 1991-2016
Hatje Cantz
386 pages
Hardcover
296 x 246 mm
English
ISBN: 978-3-7757-4242-9
2016
7,500円+税
Sorry, SOLD OUT

Walter Niedermayr, HG Merz / "Station Z": Memorial Sachsenhausen

Added on by Yusuke Nakajima.

20世紀前半は、2度に渡る世界大戦が象徴するように、残忍な行為の絶えない時代でした。
特に悪名高いのは、ヒトラー率いるナチスの無慈悲な振る舞い。ヨーロッパ各地に強制収容所を設け、戦時中にはその壁の内側で被収容者に対する非道な行為を施していきます。

ドイツ・ベルリン北部に設置されたザクセンハウゼン強制収容所の跡地には、追悼の意を込めて記念施設・博物館があります。
その中心に位置するのが、SS(ナチス親衛隊)によって使用されていた[Station Z]と呼ばれる火葬場です。

廃墟となったこの土地に、ドイツの建築家HGメルツ(1947年生まれ)が抽象的な防護施設を設計し、1998年から2005年にかけて建設されました。
この建築物は、かつての火葬場からそのまま残されていた基礎を保護する、また訪問者に黙想の場を提供するという目的のもとに手がけられました。
半透明なシェル形状の内部空間にフォーカスすることで、囚人たちの絶望的な状況を例証しています。

日本の建築事務所SANAAの手がけた建築を被写体にして、その構造に対する巧みかつユニークな解釈を提示したことで評価の高い、イタリアの写真家Walter Niedermayr(ウォルター・ニーダーマイヤー、1952年生まれ)。
彼は決して華々しさはないが極めて印象的な方法で、この場所の悲痛や歴史的な記憶を写真を通じて描写しています。

全てのビジュアルが観音開きの状態で収録されている装丁からも、隠蔽されていた無惨な出来事のその裏側を紐解き、しっかりと見つめていくような緊張感が演出されています。
ニーダーマイヤーならではのハイキートーンと薄曇りの空が相まって、現代の情景にも拘らず半世紀以上前に刻まれた追憶と重なるような不思議な感覚が芽生えてきます。

本書のプロローグとして、1995年に当強制収容所の解放50周年を記念して行われた、ポーランドの作家で、以前この被収容者であったAndrzej Szczypiorskiによるスピーチが収録されています。また、HGメルツによるエピローグは、この設備の歴史や過去数々の受賞歴のある今日の建築物についての見解が述べられています。

Walter Niedermayr, HG Merz / "Station Z": Memorial Sachsenhausen
Hatje Cantz
64 Pages
Softcover
25.8 x 33.6 cm
German, English, Polish
ISBN 978-3-7757-2397-8
2009

Walter Niedermayr / Recollection

Added on by Yusuke Nakajima.

写真家Walter Niedermayr(ウォルター・ニーダーマイヤー、1952年イタリア生まれ)の作品を説明するとき、
ハイキー(露出オーバー)というキーワードは外せません。

彼は雪山のランドスケープやインフラといった壮大なスケールの被写体を捉えていますが、
真っ白い情景のなかに人物や建築物などが点在する様子は、浮世離れした独特の雰囲気が漂います。

また、建築写真にも定評があり、日本では建築家ユニットの妹島和世+西澤立衛/SANAAの建築物を撮影することでも知られています。
なかでも彼らの代表作である金沢21世紀美術館を撮影したシリーズは、これまで出版された彼の写真集にも収録されています。

 

本書は、彼が2005年と2008年の二度に渡り、イランのテヘラン・イスファハン・ヤズド・シーラーズなどの小都市や歴史的な場所を訪れたプロジェクトをまとめたものです。
文化的・歴史的な文脈を踏まえつつ、イランの現代建築をあらゆる観点から捉えた風景写真は、
異国に実在するあるがままの景色をより印象深い情景として映し出しています。

本書の制作にあたり、グラフィックデザイナーと出版社との密なコラボレーションワークも見逃せません。

グラフィックデザインは、メーフィス&ファン・ドゥールセンによるもの。
彼らはオランダのアムステルダムを拠点にする2人組のユニットで、主にアートブックや展覧会カタログといったビジュアルブックのデザインを数多く手がけていますが、
その目覚ましい活躍は同年代のデザイナーの中でも抜きん出ており、多方面から絶大な信頼を得ています。

気鋭の現代写真家とデザイナー、そしてあらゆるクリエイティブな領域のアートブックに特化した出版社との競演により、出来映えのいい1冊に仕上がっています。

Walter Niedermayr / Recollection
Hatje Cantz
170 Pages
Hardcover
26.1 x 30.2 cm
English and German
ISBN 978-3-7757-2738-9
2010