現在POSTで展覧会を開催している(会期:2017年3月11日~4月2日)、彫刻家のフェルナンド・カサセンペーレは、チリ・サンティアゴに生まれ育ち、1980年代にはバルセロナに渡って陶芸と彫刻を学びました。その後は一度生まれ故郷に戻り、チリや北米を中心に、国際的な活動を繰り広げていきました。1997年には作品の素材となる粘土を12トン以上も携えてロンドンに渡り、以後拠点を移して制作しています。
伝統的な陶磁器(セラミック)の技法で生み出されるカサセンペーレの作品からは、ラテンアメリカの景観を彷彿させるダイナミックなスケール感やその土地特有の空気感がよく伝わってきます。
芸術・文化が成熟したロンドンに身を置くことによって大いに刺激を受ける一方で、根幹にある作家としての原点をなす母国で培った要素が後ろ盾となり、作品の独創性だけでなく強度をも高めています。
彼自身のアイデンティティとともに見過ごすことができないもの、それは自然や生態系に対する深い関心でしょう。チリは世界一の銅産出量を誇り、産業発展において大きく寄与してきました。その一方で、深刻な環境破壊が進んでいたのも事実です。
彼の彫刻作品は、鉱山の採掘後に廃棄された土をベースとなる陶土に混ぜ込んだ粘土を素材として成形されています。まるで大理石のような硬質な印象を与えるセラミックの作品を通じて、人間のエゴが環境を破滅させてきた脅威に対して真っ向から対峙し、声高に訴えます。
2016年に出版された本書では、過去25年に及ぶ彼のキャリアを通じてその目覚ましい活動を包括的にみることができます。年代を追うような構成にすることで、時間の流れに沿って作家がどのような歩みを経てきたのかを捉えられることができます。
ざらつきのある布地をカバーに起用した重厚感のある装丁もまた、物理的な側面から彼の作品のプレゼンテーションを担っています。中面の写真イメージはページいっぱいにひろがっていて、まるで大きな作品群を目の当たりにしているかのような圧倒的な迫力があります。
本書のデザイナーであるマルゴーシャ・シェンバーグは、カサセンペーレの作家性や作品の真髄をよく汲み取り、持ち前のセンスと技術を惜しげもなく活用することで、丁寧に作品集をつくりあげました。
作家とデザイナーとが互いに敬意を払いながら、自らの職能を存分に活かして協働することによって編み出された、渾身の一作です。
Fernando Casasempere / ORBRAS WORKS 1991-2016
Hatje Cantz
386 pages
Hardcover
296 x 246 mm
English
ISBN: 978-3-7757-4242-9
2016
7,500円+税
Sorry, SOLD OUT