Karel Martens / Motion

Added on by Yusuke Nakajima.

2016年秋に新刊「Prints」を発表したばかりのKarel Martens(カレル・マルテンス)の勢いはとどまることを知りません。どうやら、また新たな実験的試みを展開しているようです。

もはや説明不要かもしれませんが、マルテンスはオランダを拠点とするグラフィックデザイナー・教育者として、国内外で目覚ましい活動を展開しています。アーティストでもあり、ときにタイポグラフィやブックデザインを手がけることも。それを聞いただけでも、いかに多彩な人物であるかは察しがつきます。

多分野にまたがる彼の精力的な取り組みを一箇所でこじんまりと発表するのはもったいない。
そう思い至ったのでしょうか。
2017年最初の旋風は、欧米6ヶ所を舞台としたサテライトイベント「Motion」でした。

2017年2月にはドイツ・ミュンヘンの美術施設(*1)を皮切りに、オランダ・アムステルダムの書店(*2)や図書館(*3)、フランス・パリの書店(*4)、リトアニア・ビリニュスのアートセンター(*5)を経て、最終的に同年4月にはアメリカ・ニューヨークのアートスペース(*6)で最高潮に達します。
複数会場での同時期開催とは言っても、いわゆる巡回展とは一線を画します。本イベントはそれぞれの会場で別個の展示構成が組まれ、彼のバラエティに富む側面のひとつひとつにフォーカスをあてていきます。

一見すると各々がとりとめのないようの思われがちですが、それこそがマルテンスの活動における多面性を端的にあらわしているように思わずにはいられません。
点在する同時多発的なサテライトを結びあわせると、包括的なロードマップが描かれる。彼の拡張的な実践を通じて複合的な見解が明らかになるのです。

Motionはマルテンスの実践を展開する場というよりは、彼のやり方を具現化したデモンストレーションと言えます。この道50年以上にわたるキャリアを余すことなく網羅するだけでなく、現在(そして未来)にもしっかりと根ざしています。

本書はミュンヘンでの展覧会にあわせて、会場であるKunstverein MünchenとRoma Publicationsとの協働シリーズ第7弾として出版されました。編集面ではマルテンス本人とともに、Julie Peeters(ジュリー・ペータース)が尽力し、本展の重要な構成要素を担います。

また、マルテンスの教育者としての一面も、本展にとって欠かすことのできない要素です。
例えば、彼の卒業生による出版物のセレクションは、1998年に彼が共同設立した学校ヴェルクプラーツ・タイポグラフィ(オランダ・アーネム)のためにマルテンスがデザインしたテーブルの上にディスプレイされています。彼の計り知れない影響力を実証しているかのようです。

読者が待ち焦がれているのは、なんといってもマルテンスの最新作品群ではないでしょうか。
多色使いのアイコンで構成された壁紙、インタラクティブなビデオ投影、存在感のある大きな抽象性の高い時計といったいくつかの新しいコミッションワークは、本展のために制作されたものです。

これに加えて、既存の作品は特別に再構成されています。そのなかには、ファウンド・マテリアル(見つけてきた素材)のモノプリント、紙レリーフ、ビデオ、自身のスタジオの壁面を彩る多種多様な印刷物、動的彫刻、ごく初期の光学作品といった、いくつかの代表的な作品も垣間見られます。
色、フォーマット、タイプ、そしてマテリアルに対するマルテンスの機敏かつ体系的なアプローチを裏付ける文脈的基盤のあらわれです

なお、あとがきにはマルテンスとKunstvereinディレクターのフィッツ・パトリックとの対談の転写(英・独語)といったテキスト面も充実しています。

Karel Martens / Motion
Roma Publications
304 pages
Paperback
210 x 297 cm
English
ISBN 9789491843853
2017
4,500円+税
Sorry, SOLD OUT

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注釈

*1 Kunstverein München
http://www.kunstverein-muenchen.de/en/program/exhibitions/upcoming/karel-martens-motion

*2 San Serriffe ※イベントはすでに終了
https://www.facebook.com/events/731256457022031/

*3 the Rietveld Library
http://library.rietveldacademie.nl/

*4 Section 7
※リンクなし

*5 CAC Reading Room
http://www.cac.lt/en/athenaeum

*6 P!
http://p-exclamation.com/