「Reprint」(2015年)に続き出版された、オランダが誇るグラフィックデザイナーのカレル・マルテンスの作品集「Prints」には、2014年から2016年にかけて制作した作品シリーズが収録されています。
凸版の手法で単色刷りをした一点物の本作は、彼の自発的な印刷実験の一環としてつくられたものです。充分な時間の積み重ねをはらんでいる古い印刷物を支持体として、工具といったファウンド・オブジェクトを象り、色とりどりのシルエットを重ね合わせていきます。減色混合を繰り返して出現したビジュアルは、視覚的にはシンプルな構成でありながら、印刷ならではの本質に迫る奥深いものです。
ほぼ全ての作品は原寸大で複製したものですが、ステンシルで数字が羅列された2点だけは大判の作品を縮小して収録しています。このアートワークについては、マルテンスとインド式速算術(*1)との出逢いに遡ります。
建造物にタイルを活用したり装飾する際にも応用されるこの手法に興味をそそられた彼は、「これを色の世界に落とし込んでみたらどうなるか?」と思い立ち、印刷システムと掛け合わせてみようという発想に至りました。これに則ると、例えば「3」は黄色・青緑色・黄緑の3色が配合された色彩を帯びます。
彼にしてみたら、あくまで速算術は目的を達成するための方法であり、手段なのだそう。このビジュアルが単なる数字としてではなく、また単なる色としてでもなく、どのようにしたら視覚的に好奇心をそそるものになるのか?ということを突き詰めていきます。
常日頃、「三原色があれば世界中のすべての色をつくることができる」という事実に驚嘆し、色彩や印刷とは切っても切れない深い関係のあるマルテンスらしい、観察眼と好奇心に裏打ちされた着眼点と、延々と制作を続けていく根気強さには脱帽です。
彼はいつだって錯視に魅了される一方で、こうした規則的な構造を書籍へと落とし込むことはなかなか難しいと感じていました。自ら研究を重ねていくうちに、ようやくこのプロジェクトを編み出しました。本書から、魔法のような美しさが余すことなく伝わってきます。
Karel Martens / Prints
Roma Publications
48 pages
Paperback
170 x 240 cm
English
ISBN 9789491843778
2016
3,200円+税
Sorry, SOLD OUT