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Cy Twombly / Photographs Volume II

Added on by Yusuke Nakajima.

21世紀を代表するアーティストと称される、Cy Twombly(サイ・トゥオンブリー、1928年アメリカ・ヴァージニア州生まれ)。昨年2015年に原美術館で個展が開催されたことも記憶に新しいかもしれません。

抽象表現主義(*1)の第二世代にあたる彼は、ペインティングやドローイングなどの平面作品や彫刻を中心とする作品群を手がけてきました。画面いっぱいに自由自在に動きまわる筆跡を目の当たりにした鑑賞者からは「まるで子どもが描いたらくがきのようだ」と形容する声があがります。あくまで想像ですが、なにも彼は童心にかえって制作しているのではなく、描く行為を通じて視覚的な詩をしたためていたのではないでしょうか。

トゥオンブリーは、ブラック・マウンテン・カレッジ(*2)に通っていた1950年初頭から83歳で他界した2011年まで、作品制作の傍らに自身の日常生活を写真に撮り納めていました。生まれ故郷のヴァージニアの青々とした情景や、のちに移住したイタリアの海岸。古代の建造物や彫刻をクローズアップして捉えたディテール。スタジオのインテリア。オブジェや花といった静物。彼にとって身近なもの、心に留まったものを記録していたようです。

1990年代初頭になると、トゥオンブリーは特殊コピー機を用いて、絹目紙にポラロイドで撮影したイメージを引き延ばしました。かすかなひずみをはらむ写真イメージは、彼のペインティングや彫刻のもつ時代を超越したクオリティにも引けをとらず、それらの歴史的・文学的な暗示とが近づいていきます。

ピクトリアリズムの写真家として知られるAlfred Stieglitz(アルフレッド・スティーグリッツ *3)を彷彿させるような表情豊かな写真群は、おぼろげに映し出された情景にどこか懐かしさを覚えます。

2015年にGagosina London(ガゴシアン・ロンドン)で開催されたトゥオンブリーの個展は、写真作品を中心とする作品群で構成されました。
本展で発表された20点以上の写真作品は、1985年から2008年のあいだにイタリアのローマやガエタで撮影されたもので、チューリップ・イチゴ・キャベツ・レモンといった植物や野菜果物が被写体となっています。

60年以上にわたるキャリアを通じて、トゥオンブリーは歴史的・神話的な暗示的要素をふんだんに盛り込みながら、抽象的表現主義に肉体的・感情的な側面をも注ぎ込み、壮大かつ本質的な表現へと昇華しています。

見えるものと秘められたもの、現在と過去が交互に押し寄せる感覚、記憶と忘却との闘争というものは、彼の作品において共通するテーマです。

トゥオンブリーに限らず、アーティストによっては複数の表現媒体を介して作品を制作するひともいます。「絵画」「彫刻」というようなカテゴリーの枠に縛られないことで表現の幅が広がる一方、不思議とどの媒体の作品であっても相通じる作家性を感じ取ることができます。

 

Cy Twombly / Photographs Volume II
Gagosian
Text by Mary Jacobus
48 pages, Fully illustrated
196 × 254 mm
English
ISBN: 978-1-938748-25-7
2015

4,800円+税
Sorry, SOLD OUT

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注釈
*1 抽象表現主義
1940年代後半から50年代にかけて、アメリカで隆盛したアート・ムーブメント(芸術動向)。これを機に、現代美術の中心地がヨーロッパからニューヨークへとシフトしていった。

*2 ブラック・マウンテン・カレッジ
1933年にアメリカ・ノースカロライナに創設された芸術学校。実利的な教育方針により、John Cage(ジョン・ケージ)・Richard Buckminster Fuller(バックミンスター・フラー)・Robert Rauschenberg(ロバート・ラウシェンバーグ)といった鬼才たちを輩出した。

*3 Alfred Stieglitz(アルフレッド・スティーグリッツ)
1864年アメリカ・ニュージャージー州生まれ。近代写真家の父と呼ばれた。妻である画家のGeorgia O'Keeffe(ジョージア・オキーフ、1887年アメリカ・ウィスコンシン州生まれ)を被写体とした作品群がよく知られている。

Thomas Ruff / NATURE MORTE

Added on by Yusuke Nakajima.

16世紀にはすでにカメラ・オブスキュラの技法が生まれていたようですが、実際には19世紀にカメラ機器の技術が確立され、これが写真の黎明期にあたります。やがて20世紀には多くの写真家の手によって名作が生まれ、文化的にも大きく花開きます。21世紀に入るとデジタルカメラが普及し、かねてより主流であったフィルムカメラに代わって台頭するようになりました。今まさに、写真は新たな岐路に立っています。

Thomas Ruff(トーマス・ルフ、1958年 ドイツ/ツェル・アム・ハルマースバッハ生まれ)は、彼の師でもあるベッヒャー夫妻を筆頭とするドイツ現代写真の潮流を牽引する代表的な写真家で、写真というメディウムを芸術表現の主流へと導いた立役者です。彼の功績は、その作品が世界中の主要な美術館に収蔵されていること(*1)や各地で大規模な展覧会が繰り返し開催されていることからも窺い知ることができます。

代表作としては、自らが友人たちを被写体に撮影した無表情のポートレイト写真シリーズを鑑賞者の背丈を超える巨大サイズに出力して展示した「Portraits」、インターネット上にあるポルノ画像を加工した「NUDES」、研究所の撮影した天体写真のアーカイブをもとにした「Stars」、NASAの偵察カメラが撮影した火星の表面を撮影した写真を3D仕様にした「Ma.r.s」といったシリーズがあり、どれも斬新なアプローチで話題を呼んでいます。

一方で、より高みの写真表現を追求するために、伝統的な技法を再検討しています。近年は、写真のネガにまつわる視覚的で示唆に富む特性がつまったフォトグラム(*2)にも取り組むようになりました。おぼろげな影・球体・ジグザグ・豊かな色彩の背景の前にあらわれるハード・エッジというように、ポジとネガのイメージを巧みに用いた表現を通じて、写真の新たな魅力を創出することに邁進しています。

作風は異なれど、いずれも「客観性」というのが主軸となってきます。

本書では、2015年にガゴシアン・ロンドンで開催された展覧会で発表された作品シリーズを収録しています。まるで彫刻作品を染色するかのように色を反転させることによって、被写体である植物の形状や特徴が際立ちます。ユリの花を生けた花瓶は、白いシルエットを極力減らすことで煙がたちこめるようにもみえます。また、グレイトーンに落とし込まれたしなだれたアジサイは、その豊かなふくらみが視界に飛び込んできます。

自身が撮影をしないという衝撃な選択をする以前は、ルフも同年代の写真家と同様に、ネガフィルムを使って撮影していたひとりでした。25年以上にわたって愛用していたネガフィルムが時代の流れとともに淘汰されほぼ消滅したとき、彼はただ絶望するのではなく、写真を再概念化してみようという発想の転換に至りました。持ち前の探究心が、彼の作品を発展させる何よりの動機付けになっているのかもしれません。

Thomas Ruff / NATURE MORTE
Gagosian
Text by Philip Gefter
40 pages, Fully illustrated
Softcover
152 x 203 mm
English
ISBN: 978-1-938748-19-6
2015

4,800円+税
Sorry, SOLD OUT

注釈

*1 パブリックコレクションとして収蔵されている主要な美術館の一例は以下のとおり。
■ニューヨーク:メトロポリタン美術館、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、グッゲンハイム美術館
■ワシントンD.C.:ハーシュホーン博物館と彫刻の庭
■シカゴ:シカゴ現代美術館
■サンフランシスコ:サンフランシスコ近代美術館
■ロンドン:テート・ギャラリー(ロンドン)
■パリ:ポンピドゥー・センター
■マドリッド:ソフィア王妃芸術センター
■ベルリン:ハンブルグ駅現代美術館

*2フォトグラム
カメラの要らない技法。印画紙の上に直接被写体となるものを置いて感光させるなどの方法により作品を制作する。20世紀初頭にマン・レイやラズロ・モホリ=ナジといった面々が発展させた。

Mark Grotjahn / Masks

Added on by Yusuke Nakajima.

Mark Grotjahn(マーク・グロッチャン、1968年アメリカ・カリフォルニア生まれ)は、現在はロサンゼルスを拠点に活動しています。バークレーにあるカリフォルニア大学で美術学修士号(MFA)、ボールダーにあるコロラド大学で美術学士(BFA)を取得し、芸術家としてのキャリアを始動しました。
これまでに、ロスのハマー美術館(2005年)やニューヨークのホウィットニー美術館(2006年)、コロラドのアスペン美術館(2012年)などアメリカ国内だけでなく、スイスのトゥーン美術館(2007年)やポーランド美術館(2010年)で個展を開催しています。また、ニューヨーク近代美術館(MoMA)やグッゲンハイム美術館、ロセンゼルス近代美術館、オランダのアムステルダム市立美術館やロンドンのテート・モダンでは、コレクションとして作品が収蔵されています。

※Gagosianのウェブサイトよりスクリーンショット

一見すると、グロッチャンの作品群は自然や活動に対する言及をふんだんに用いながら、モダニストの論議のなかにおいて純粋な美的感覚と結合してあらわれます。
彼は、花や水のある自然の世界に対していくつかの反復する接点のひとつとしてバタフライ(蝶)のモチーフを用い、それをペインティングとドローイングと多岐にわたる表現に登場させ、その可能性を生み出していきます。彼の進行中のバタフライシリーズは、ふたつないし多数の消失点を用いるような透視画法的な研究やルネッサンス時代以降に使われているテクニックにフォーカスを充て、二次元の表面に奥行きとボリュームのイリュージョンを創りだします。
こうした複雑かつ歪められたアングルと、光り輝く色調の彩りによる象徴的な構成は、ロシアの構成主義から視覚的芸術の幻覚のようなイメージまで、モダニストの絵画における歴史からひらめく多様な物語をほのめかします。極めてエレガントなグロットヤンの作品にはよく傷やマーキングが見られますが、これは彼の巧みにコントロールされた構成においてプロセスの偶発性を証拠立てることに一役買うことでしょう。

その作品群の中心にあるのは、放射するように発しているストローク。往々にして単色でありながら、着彩された表面の光沢は揺らめきます。度々Barnett Newman(バーネット・ニューマン、1905-1970 アメリカ・ニューヨーク生まれ)の「zip」ペインティングが引き合いに出される、抽象的なバタフライの羽根に類似性を見出せるこれらの作品を、1960年代に数学者や気象学者によって提唱された「バタフライ・エフェクト」と称することもあります。

2012年にGagosianギャラリーで開催されたグロッチャンの展覧会では、こうしたアプローチとは全く異なる作風の作品が出展されました。それは、マスクをかたどった彫刻作品。その出で立ちは、見るからに虚偽的です。段ボール紙で作られたアッサンブラージュによるブロンズ製の鋳物は、彼が10年以上プライベートワークとして手がけてきたものです。
もとの素材の段ボールは、うねり・へこみ・涙・しわといったすべてのニュアンスを留めます。それぞれのオリジナル段ボール紙の形状が、鋳型を使った鋳込みの手法によって8通りのブロンズの鋳物を生み出しました。(場合によっては、グロッチャンは溶融金属を移し込み、それらをパワフルかつ規則的な要素へと変容させるというチャンネルを保持してきました。)

これらのブロンズはしばしば指を用いて、騒々しいスペクトラムの色合いで力強く着彩されています。深紫に緑のアクセント、暗赤色、緋色、エメラルド、青緑色、パステルの色調を和らげたもの、くすんだり燃えるようなトーン…と、色とりどりの作品が並びます。その一方で、抽象的なことばを用いながら、表情豊かなようすで観る者が注目せずにいられないような魅力を醸し出し、グロッチャンが作者であるということを示しています。それらの表面は不規則に積み重ねられたサインやイニシャルで覆われています。

本作は精巧に作られたテクスチャーやプリミティブなスタイルで、着彩された段ボール紙によって野性的な質感が強調されています。それもあって、緻密なレイヤーとニュアンスのあるモノクロームで描かれるこれまでのグロッチャンの一連の作品、すなわち顔やバタフライのペインティングとは対照的だと明言するひとも少なくありません。

マスクの彫刻作品は、シンプルな段ボール箱をもちいた構築、言うなれば典型的な初期の教室で行われた工作の活動を彷彿させます。また、巨匠ピカソがのどかな地中海での日々を過ごしている間に我が子に向けたアプローチを非常に魅力的に模倣しています。
フラットで四角い顔に、眼のところにふたつの穴、鼻にはニューブ、そしてすこし大きめの穴やスラッシュで口を表現しています。なかには顔の特徴とされる3つの要素(眼・鼻・口)の一種を与えられているだけのものもあります。

初期のモダニストやアフリカ・オセアニアの芸術との間にあるインスピレーションの湧く関係性を再現することで、それらは同様にタシスト(注:タシズム=絵の具をたらしたり、飛び散らせたりする抽象画法)や抽象表現主義者たちによって手ほどきされた表面への執念を模索しています。

アートの歴史における先駆者のように、グロッチャンは模造や制作というプロセスを経由して指示対象から美的な除去を確立し、結果として彼の彫刻作品は、非の打ち所のない原始的な強さと、洗練されていながらもひとの心を惹きつけるアピールの両方を見事に証明しています。

Mark Grotjahn / Masks
Gagosian
204 pages
337 × 298 mm
English
ISBN: 978-0-8478-4407-4
2015

In the Studio

Added on by Yusuke Nakajima.

普段創作をしないいち鑑賞者の立場からすると、アーティストやクリエイターの作品が制作されるスタジオ(アトリエ)というものはまるで神聖なる空間のように感じるところがあり、そこで生み出される作品ともども、非常に魅力的なように映ります。一方、同じく創作に打ち込む身にとっても、他のクリエイターがどんな空間で制作に打ち込むのだろうかと、興味を惹かれることは間違いありません。

実はスタジオを写し出した美術作品にはとても深い歴史があり、写真集を目にすることは度々あります。
今回、世界中のトップアーティストの作品を扱ってきたGAGOSIAN(ガゴシアン) では、非常に興味深い展覧会「In the Studio」が開かれたようです。

John Elderfield(ジョン・エルダーフィールド、1943年イギリス・ヨークシャー生まれ)とPeter Galassi(ピーター・ガラッシ)というふたりのキュレーターの尽力により、絵画と写真というふたつのアプローチから迫る展覧会が同時開催されました。この対になった展覧会のねらいとは、これらのふたつの表現手段における主題の発展において重要なテーマを模索することです。

2003年から2008年にかけてニューヨーク近代美術館(MoMA)で名誉ある絵画・彫刻部門のチーフキュレーターを務めたエルダーフィールドは、本展のうち「Paintings」をキュレーションし、16世紀半ばから20世紀末にかけて、40名近くのアーティストにより制作された50点以上の絵画や紙を支持体にした作品が出展されました。

Henri Matisse(アンリ・マティス)、Pablo Picasso(パブロ・ピカソ)などの作品から、極めて早く長い慣習的なモチーフ、例えばイーゼルを前にした画家、教育的な情景、アーティストとモデルのイメージなどが並びます。
また、Constantin Brancusi(コンスタンティン・ブランクーシ)、Alberto Giacometti(アルベルト・ジャコメッティ)といった、のちに歴史となったスタジオのあるべき姿そのものにフォーカスしています。

「虚構の、あるいは空想上のスタジオ」というのは、19世紀末以降人気を博した主題ですが、Diego Rivera(ディエゴ・リベラ)らのキャンバス作品が挙げられます。
一方、アーティストの素材を重要視した動きは、Jean-Baptiste Siméon Chardin(ジャン・シメオン・シャルダン)の18世紀の作品から、19世紀のCarl Gustav Carus(カール・グスタフ・カールス)やAdolph von Menzel(アドルフ・フォン・メンツェル)の作品まで起源を追うことができるでしょう。
そして、戦後のアーティストのJim Dine(ジム・ダイン)やJasper Johns(ジャスパー・ジョーンズ)に至ります。

アーティスト自身の作品と他のアーティストの作品がともに描かれたスタジオの壁面の描写は、戦後時代には至る所で目にしました。
そこには、Roy Lichtenstein(ロイ・リキテンスタイン)、Robert Rauschenberg(ロバート・ラウシェンバーグ)といった面々の作品を見出すことができます。

本展に出展された絵画のなかには、これまでニューヨークで披露されたことがなかった作品もありますが、なかでも同じく出展されたピカソによる一対の作品「L'Atelier(1927-28年)」は、これまでアメリカ国内でもペアで展示されたことはありませんでした。

※注釈:他に作品が収録されているアーティスト
Wilhelm Bendz(ヴィルヘルム・ベンツ)、Honoré Daumier(オノレ・ドーミエ)、Thomas Eakins(トマス・エイキンズ)、Lucian Freud(ルシアン・フロイド)、Jean-Léon Gérôme(ジャン=レオン・ジェローム)、William Hogarth(ウィリアム・ホガース)、Louis Moeller(ルイス・モーラー)、Alfred Stevens(アルフレッド・スティーブンス)、James Ensor(ジェームス・アンソール)、Jacek Malczewski(ヤチェク・マルチェフスキ)、Philip Guston(フィリップ・ガストン)、Richard Diebenkorn(リチャード・ディーベンコーン)、Larry Rivers(ラリー・リバー)など。

同じくMoMAで写真部門の5代目チーフキュレーターを務めたガラッシは、本展のうち「Photographs」をキュレーションし、写真の黎明期から20世紀末に及ぶ、50名以上の写真家による150点近くの作品が出展されました。

展示は贅沢な3部構成で、いずれもアーティストのスタジオのイメージにおける隣接した主題です。
ひとつは、スタジオを「ポーズとペルソナ」のための活動の場と捉えて認識したアプローチ。躯体を飾るための人がつくった区画や、Eadweard Muybridge(エドワード・マイブリッジ)、Brassaï(ブラッサイ)、Walker Evans(ウォーカー・エヴァンス)から、Richard Avedon(リチャード・アヴェドン)、Lee Friedlander(リー・フリードランダー)、Cindy Sherman(シンディ・シャーマン)の作品が連ねます。
ここに集められたヌードやポートレイト写真は、それらがセッティングの役割認めている、ないしポーズの思慮深さを引き立たせる、もしくはペルソナの意図的な制定を強調するという点において典型的なものだと言えます。

第2セクションは、「4つのスタジオ」。写真をより徹底したセレクションで構成されており、ブランクーシ、André Kertész(アンドレ・ケルテス)(※パリにあるPiet Mondrian(ピエト・モンドリアン)のスタジオで撮影された)、 Lucas Samaras(ルーカス・サマラス)、Josef Sudek(ヨゼフ・スデック)のスタジオが、全体的に美意識の高い環境としてお目見えします。
これらの写真(モンドリアンのものを含む)はいずれも、スタジオが我が家であると同時に作業場でもあり、ユニークかつアーティスティックなアイデンティティが具現化したものであり、おそらくそれを実現するひとつの手段として、包括的に美的な環境となりました。

最終章となる第3セクションは、「イメージのきまり悪さ」。
John O'Reilly(ジョン・オレイリー)、ラウシェンバーグ、Weegee(ウィージー)や他の写真家が撮影した作品は、蓄積やイメージのディスプレイの場として、スタジオの壁を埋め尽くします。

歴代の巨匠たちが手がけたスタジオの情景を切り取った絵画や写真の作品を通じて、普段や表立って語られることのない制作風景にも目を向ける機会がもたらされます。
作品を舞台としたら、舞台裏での出来事を垣間見ることで、作家や作品により深い興味や理解が芽生えるということは、今後の鑑賞に対する洞察力が高まるでしょうし、また表現者にとっては自身の制作にも一役買うはずです。

 

In the Studio
Gagosian
2 books in slipcase
In the Studio: Paintings: Essay by John Elderfield, and extended plate captions by John Elderfield and Lauren Mahony; 180 pages; Fully illustrated
In the Studio: Photographs: Essay by Peter Galassi; 188 pages; Fully illustrated
254 x 330 mm
English
ISBN: 978-0-714870-26-7
2015

Rachel Whiteread / Catalogue

Added on by Yusuke Nakajima.

Rachel Whiteread(レイチェル・ホワイトリード)は、イギリスをリードする現代彫刻家のひとりです。
1963年にロンドンで生まれ、ブライトン大学でペインティングを、その後スレード・スクール・オブ・ファインアートで彫刻を学びました。
1993年に彫刻作品”house”で注目を集めることになりますが、これはロンドンのイースト・エンドにある立ち入り禁止になっているテラスハウスの室内空間にコンクリートを流し込み、原寸大のレプリカにしたもの。建物の内部空間を可視化した作品は、「空白/余白を可視化する」というのちに確立される彼女のスタイルの礎ともなりました。同年にはターナー賞を受賞しています。
それから徐々に国際的な賞賛を獲得するに至り、欧米でパブリック・ワークを手がけるようになりました。

 

本書は2008年にガゴシアン・ギャラリーで開催された彼女の展覧会にあわせて出版されました。
石膏、顔料、樹脂、木材、金属を用いて制作された作品群も根底にあるコンセプトには忠実ながら、カラフルに彩られているうえに中には半透明なものも混じっているからか、白い石膏で形成された重厚感のある他の作品群と較べると軽やかでポップな印象を与えます。
この色の効果は絶大で、初めて作品を目の当たりにする彼女の作品とは親和性の低い鑑賞者に対しても、作品への興味を引き出す余地を持ち合わせているように感じます。

 


ランダムに配置された展示台や什器に展示された作品は、彼女を含みその同年代のイギリスの現代美術作家を総称するヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBA)の精神性、すなわち既成概念を壊すような革新的かつ予想だにしないような作品を発表しつづけるスタンスとも相通じるものがあります。
 

 

Rachel Whiteread / Catalogue
Gagosian
68 Pages
26 x 30.5 cm
English
ISBN 1-932598-84-7
2008

Richard Serra / Serra 2013

Added on by Yusuke Nakajima.

サンフランシスコ出身の Richard Serra(リチャード・セラ、1938年生まれ)は、現代美術において最も重要なアーティストです。
彼の手がける作品はとてつもなくスケールが大きく、サイトスペシフィック(特定の場所に帰属する性質)であることで知られており、アイスランドからニュージーランドに至る世界中に作品を設置することで、建築的・都市的なランドスケープをつくり出してきました。
これまでにニューヨーク近代美術館で1986年と2007年の2度にわたる回顧展をはじめ、ビルバオ・グッゲンハイム美術館での常設展(スペイン/2005年)、グラン・パレ(パリ/2008年)、ブレゲンツ美術館(オーストリア/2008年)、メトロポリタン美術館(ニューヨーク/2011年)といった、世界的にも名高い美術館で展覧会が開催されています。

本書は2013年にGagosian Galleryで開催されたセラの展覧会にあわせて出版されたカタログです。
モノクロで映し出されたインスタレーション作品は、展示会場の空間を埋め尽くすほどに巨大で、見るからにどっしりとした重厚感があります。
特に人物の映り込む写真でみると、そのスケール感がよくわかります。

写真からはマテリアルの硬度や質感を推し量るのは難しいかもしれませんが、実はこれらの作品は耐候性鋼という硬質な素材で制作されています。
「この作品がもし目前に立ちはだかったら…」と考えるだけで、途方もない気持ちになります。

彫刻は三次元的な立体表現なので、物質的な存在です。一旦作品がその場所に設置されると、周囲をただよう空気は一変します。
人や動物などの生命体をモチーフにした具象的な彫刻ならばまるで本物のような気配をかもしだしますが、
何かを象るではない抽象性の高い彫刻だとしても、時として息を呑むような圧倒的な存在感を放つことがあります。

セラの作品は決して自己主張が激しいような特性ではないのですが、装飾的な要素が一切ないたたずまいが故に、近寄りがたさを通り越し、もはや崇高な印象さえあります。
作品がその場所に収まった途端、見事な壮観が生まれるほどに強烈な影響力を及ぼします。

Richard Serra / Serra 2013
Gagosian
88 Pages
24.8 x 28.6 cm
ISBN 978-0-8478-4371-8
2014

Andy Warhol / EARLY HAND-PAINTED WORKS

Added on by Yusuke Nakajima.

20世紀を代表するアーティストであり、アメリカ・ポップアートの第一人者として知られるAndy Warhol(アンディ・ウォーホル、1928-1987)。
日本では、2014年2〜5月に森美術館で開催された大規模な個展が記憶に新しいのではないでしょうか。

本書は、2005年にニューヨークのGagosian Galleryで開催されたウォーホルの展覧会にあわせて出版されたカタログです。
分厚いボール紙にモノトーンで描かれたコカ・コーラのボトルが配された表紙は、一目見て彼の作品集とわかる潔さとインパクトで目を引きます。

1960年代初頭に発表されたシルクスクリーン・ペインティングの作品群といえば、キャンベル・スープの缶など既製品を描いたものが有名です。
具体的なプロセスとしては、印刷されたイメージをトレーシングペーパーに写し、それをキャンバスや麻布、紙などの表面に描きます。
そのトレースされたイメージはアクリル絵の具などで着色され、より軽快さを帯びてあらわれてきます。
中身にしても、ただ作品がそのまま印刷されているのではなく、別紙に印刷された図版が大きく貼り込まれているのが特徴的です。
まるでエフェメラ(フライヤーなど)を丁寧にスクラップしているかのような凝った造本により、ページをめくるごとに高揚します。

本書には、作品とともにモノクロで写されたウォーホルのポートレイト写真が収録されています。
ともにこの時代を牽引してきたロイ・リキテンシュタインやロバート・ラウシェンバーグと肩を並べたオフショットは、当時の空気感をありありと写し出していてとても感慨深いです。
また、ポップアートを一躍有名にした美術商のイヴァン・カープとの対談も見逃せません。

大量生産される消費材をモチーフにした作品群は鑑賞者側からするとあまりにも既視感がありますが、
彼の最も勢いのある時代の作品をストレートかつ印象深く編集した本書は完成度が高く、
一度手に取って目を通してみると、不思議とぜひとも手元に置いておきたいという気持ちが募ります。

 

Andy Warhol / EARLY HAND-PAINTED WORKS
Gagosian
24.8 x 28.6 cm
English
ISBN 978-1-932598-21-9
2005