Pots by Steve Harrison

Added on by Yusuke Nakajima.

イギリスの陶芸作家・Steve Harrison(スティーブ・ハリソン)は、25年以上のキャリアのなかで、マグカップや水差しなど、日々の暮らしに彩りを添える美しいアイテムを数多く手がけてきました。

なかでも、陶土が溶け出したところに窯へ塩を入れる「ソルトグレーズ」という手法を用いることで知られています。ソルトグレーズは焼成の段階で釉薬と塩とが科学反応を起こし、丈夫で光沢のあるガラス質の表面が表れます。いかんせん仕上がりが予測不能なために多くの陶芸家が敬遠するのですが、彼はふたつとして同じものができないこの手法を敢えて選び、予定調和ではなし得ない創作に醍醐味を感じながら制作をしています。

 

およそ12年ほど前、ソニア・パーク氏が世界中のインテリアを紹介する雑誌に掲載されたSteve氏の作品を目にしたことで大きな衝撃を受けた彼女はその直観に従い、すぐに本人とコンタクトをとり、程なくしてロンドン郊外の彼の工房を訪れました。
数々の素晴らしい陶芸作品にすっかり魅了されたソニア氏は、その後自身が立上げるARTS&SCIENCE(A&S)で取り扱えないかと依頼します。その提案をSteve氏が快諾、こうして長きにわたるパートナーシップがスタートしました。

A&Sではこれまでに3回、彼の個展を開催しました。また、A&Sとしては初の試みである食堂[DOWN THE STAIRS]では、提供される料理は彼の食器に盛りつけられています。
どんな素晴らしいものでもただ店頭に並べるだけでは、その良さは充分に伝わりきらないものです。実際に使用できるシーンを演出をすることで、作品の本質を引き出すことに繋がっています。

 

本書は、2014年晩秋に開催されたSteve氏の個展にあわせて、彼にとって初めての作品集として出版されました。
作家自身が大切に保管しこれまで人目に触れてこなかったコレクション、そしてソニア氏の厳選されたプライベートコレクションなど、貴重な作品が多数収録されています。

陶磁器の食器は、手に触れられるだけでなく実際に使用できるという強みをもっています。しかし、それを本のなかに集約するとなると、重量や質感といった実物から直に感じ取れることがどうしても伝わりにくい。
この解決策として、本書ではほぼ実寸でビジュアルを収録しています。それにより、釉薬の風合いや細部のディテールが際立ち、そのたたずまいが孕む品格を余すことなく捉え、適切に伝えています。

 

作品を生み出す創作者とそれを伝える媒介者として、両者がともに歩んできた軌跡をたどるようなアーカイブに仕上がっています。

 

Pots by Steve Harrison
ARTS&SCIENCE
192 Pages
Hardback / Clothbound
15.5 cm x 20.5 cm
ISBN 978-4-9908020-0-4
2014