Anjès Gesink / Vogels huilen niet (Birds don't cry)

Added on by Yusuke Nakajima.

2012年以来、ドキュメンタリー写真家のAnjes Gesink(アンエス・ヘシンク)は、オランダ・ロッテルダムにあるバードサンクチュアリ[Vogelklas Karel Schot(ヴォーゲルクラス・カレル・ショット)]でボランティアをしています。
ここにはありとあらゆる種類の鳥たちがすっかり衰弱した末にやってきます。その経緯は、例えば建築物に接触したり、釣り糸に絡まってしまったりとそれぞれですが、往々にして人間の営みがもたらした弊害により困難に苛まれています。しかし、このサンクチュアリにたどり着いた鳥たちは、人間の手によって保護され、回復へ向かいます。
彼らを痛めつけるのも、その傷を癒すのも人間というのはとても興味深いことです。

ヘシンクはここで鳥の世話をしながら、写真を撮り続けてきました。ムクドリからハクチョウ、タカとその種類はさまざまですが、いずれもこのサンクチュアリで保護されたという点で共通しています。

どのポートレイト写真にも手袋をはめた人間の手が映り込んでいますが、これは人間による保護を象徴している一方で、都市部における鳥の生命に対する人間の影響というものを暗に表現しています。
人間の手が鳥に添えられているというシチュエーションは心温まるかと思いきや、その手が素手ではなくゴムという無機質な素材で覆われているだけで、両者の間には取り払うことのできない隔たりが確かに存在することを意識させます。

最低限の文字情報と白背景で大きく写真がレイアウトされた本書を見ても、まさかこのシリーズには「都市部での鳥と人間との共存」という深遠なテーマがあるとはまず思わないでしょう。
しかし、インパクトを与えるレイアウトで一旦注意を引き、結果として興味をもってもらうという仕掛けになっています。
難解なことをいかにシンプルにして相手に伝えるか。その意思疎通を手助けするうえで、効果的な視覚伝達を用いるというアプローチは、まさにオランダらしい方法だと言えます。

本書には都市生態学者でありサンクチュアリの長であるAndré deBaerdemaeker(アンドレ・デ・バーデマーカー)による寄稿が収録され、サンクチュアリでの出来事に関して言及しています。

Anjès Gesink / Vogels huilen niet (Birds don't cry)
Lecturis
144 Pages
Paperback
22 x 28 cm
Dutch
ISBN 978-94-6226-062-7
2014