BOTTOM OF THE LAKE

Added on by Yusuke Nakajima.

現実味のある表現は往々にして説得力があり、また共感しやすいという側面があります。一方、空想によって繰り広げられる世界は、ここではないどこかへと連れていってくれるような気がして夢見心地になります。それでは、事実と虚構とが織り交ぜられた創作だとしたらどうでしょうか?

アメリカの写真家、Christian Patterson(クリスチャン・パターソン)の作品を例にとりながら、その奥深さに目を向けていきます。

1972年にウィスコンシン州フォンデュラクで生まれた彼は、2002年に当時拠点としていたニューヨーク州ブルックリンからテネシー州メンフィスへと移住します。その目的は、世界を代表するカラー写真の旗手ウィリアム・エグルストンのもとで働くためでした。

巨匠の仕事ぶりを近くで見ながら、彼は2005年に初となるプロジェクト「Sound Affect」を始動。時を同じくして、のちに彼の名を知らしめた通算第2作目となるプロジェクト「Redheaded Peckerwood」に着手します。
これは1950年代に起こった大虐殺事件が元になっていますが、本作で繰り広げられる世界は事実と虚構とが錯綜しています。実際の事件現場の風景や捜査資料、当事者たちの所持品という現実に即した要素たち。それらにインスパイアされてつくられたイメージが加えられ、ひとつの作品という形を帯びています。捜査中のメモを彷彿させるような紙切れが挟み込まれたりとリアリティを伴った演出がなされ、手の込んだ創作の醍醐味を覚えます。どこまでが真実に基づくものなのか、どこからがフィクションなのか…巧みなその方法に、両者の境目すらわかりません。

創意工夫に満ちたこの秀作は2011年にイギリスの出版社・MACKから出版されるや否や瞬く間に世界中で反響を呼び、その後繰り返し重版されています(現在は第3版が流通)。

パターソンが手がける新しいシリーズは、彼のルーツともリンクする作品です。
というのも、タイトル「BOTTOM OF THE LAKE」というのは、彼の生まれ故郷の地名「Fond du Lac」の英語表現なのです。

絵画調の湖が映し出される本書の装丁は、彼の生後翌年にあたる1973年当時この街で発行された電話帳(イエローページ)を複写したもの。256ページにわたる中面には、おそらく彼の家族が書き記したであろう印や挟み込まれた紙切れなどがそのままの状態で残されています。
ここをベースに、パターソン自身が制作したドローイングや写真などのビジュアルワークがランダムに差し込まれます。これらは一見無関係に見えますが、きっと彼なりの生まれ故郷に対して抱くイメージがバックボーンとなっているのでしょう。そうした視点からもう一度ページをめくってみると、いささか唐突な印象がした各々のイメージがひと繋がりの表現に見えてくるから不思議です。

実はもうひとつ、インタラクティブな遊び心がちりばめられています。本書に記載されている電話番号に電話をかけると、彼の故郷で採録した野外の音、どこかから見つけてきたアーカイブされたサウンドやパフォーマンスが聞こえてくるのだそう。日本からは試すことができないのが残念です。

彼自身のパーソナルな心情を基盤としたユーモアのある創作は、ファウンドフォトの手法や古道具に価値を見出すような「ものの見方(見立て)」とも通じるような新たな発見をもたらします。

Christian Patterson / BOTTOM OF THE LAKE
Buchhandlung Walther König(König Books)
256 pages
Softcover
210 x 280 mm
2015
ISBN: 978-3-86335-770-2
Sold Out