Paper Airplanes: The Collections of Harry Smith Catalogue Raisonné, Volume I

Added on by Yusuke Nakajima.

世の中にはコレクターと呼ばれるひとたちがいます。古道具、好きなアーティストの写真集、世界中の切手やポストカードなど、蒐集するものは人それぞれです。単にそのコレクションのラインナップだけを見ていても、なかなか当人ほどにのめり込むのは難しいというのが正直なところ。それならば、その背景に目を向けてみてはどうでしょうか?例えば、蒐集者がどんなひとなのか。どうしてこのアイテムを蒐集することになったのか。あるいは、蒐集にまつわるエピソードなど。知られざる一面に触れることで、鑑賞側もより深く楽しめるものなのかもしれません。

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実験映画の映像作家・画家・人類学者・音楽学者・オカルト信仰者であるHarry Smith(ハリー・スミス、1923-1991)は、とりわけビート・ジェネレーション(*1)や前衛美術の領域において比類のない博識者であり影響力のある人物でした。また、 1950~60年代の民族音楽復興の基礎を築いたことでも知られています。

そんなスミス、実は妙なオブジェの蒐集家としての顔をも持ち合わせていたようです。今回、彼のコレクションのカタログ・レゾネ(*2)シリーズがリリースされました。

第一弾は「紙飛行機」。スミスの蒐集コレクションのなかでも指折りの、もっとも風変わりな逸品です。
これらはいずれもスミスが20年以上にわたりニューヨークの街角で拾ってきたもの。本書の巻末には、拾った場所をマッピングした地図が収録されています。

この錚々たるコレクション、実はその総数は明らかではないようです。80年代にこの紙飛行機コレクションのうちの大半にあたる251機がひとつの箱に収めた状態でスミソニアン博物館に寄贈されたのち、94年にはスミスの個人的なアーカイブを担うディレクターのリクエストにより、Anthology Film Archives(アンソロジー・フィルム・アーカイブス(*3))へと移管されました。ここに含まれない残りの紙飛行機たちはどうなってしまったのかはっきりしないのだそう。本書には現存するコレクションを網羅する形でまとめられています。

スミスが「サンプル」と呼んだ紙飛行機の形はさまざまで見応えがあり、眺めているだけで楽しめます。その素材となっているスクラップやジャンクメール(宣伝・勧誘などを目的とした郵便物)に印刷されたフォント・色合い・パターンなどに着目してみましょう。当時の時代感を反映していて、どれも興味深いものです。印刷物にまつわる現存する歴史的アーカイブという観点からみても好奇心をそそります。


そうは言ってもスミスをもっとも魅了した点は、構造の多様性です。あるものはシャープでスピードがでそうな出で立ちをしているし、また別のものはテーブルクロスのように広がったものもある。小さな黄色いのは、物怖じする蛾のようにもみえます。このようにしてよくよく見ていくと、デザイン性や考え方が浮き彫りになってきます。
伝えられることによれば、スミスは友人や訪問者に対して「幼少期にどうやって紙飛行機を作っていたか」とインタビューしていたとか。紙飛行機の折り方についての彼らの証言は、そのデザインにも流行り廃りがあるということを気付かせてくれます。この紙飛行機たちはまた、作り手の過去における表明でもあるのです。


彫刻的なエフェメラでもある紙飛行機は、幼少期、またそれを保存しておこうとする一風変わった熱心なコレクターの工芸品とも言えるでしょう。

Paper Airplanes: The Collections of Harry Smith Catalogue Raisonné, Volume I
J&L Books with Anthology Film Archives
240 pages
Paperback with French flaps
150 x 230 mm
English
ISBN: 978-0-9895311-3-9
2015
Sold Out

 

※注釈
*1 ビート・ジェネレーション
1950年代後半から60年代初頭にかけて台頭した、アメリカ文学界グループの総称。高度経済成長期にあたる当時の大量生産・消費によって成立する社会体制や価値観に対して異を唱え、既成概念に囚われず自由で人間的なあり方を目指した。ヒッピー文化に多大な影響を与えている。
(参考文献:http://fooline.net/beat-generation/

*2 カタログ・レゾネ(Catalogue Raisonné)
ある芸術家の作品、もしくは美術館やコレクターが保有するコレクションについて、その全作品を網羅し編纂したものを指す。

*3 Anthology Film Archives(アンソロジー・フィルム・アーカイブス)
ニューヨーク・マンハッタンにある、実験映画の保存・保管・研究・上映を目的とした非営利団体。
http://anthologyfilmarchives.org/