ISLANDS OF THE BLEST

Added on by Yusuke Nakajima.

日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、欧米では非営利の団体が出版活動を展開し、良質な書籍をこの世に送り出す取り組みを見かけることがあります。
POSTで特集した出版社で言えば、言わずと知れた現代写真界では欠かすことのできないaperture(アパチャー)や、出版社との共同開発によりユニークな出版物を手がけるBook Works(ブック・ワークス)などが挙げられます。
規模の大小はあれど、いずれも芸術活動の支援やアーティストへの敬意といった想いがよく顕れた、とても有意義な活動です。

今回は、現代写真に特化して活動を展開するSILAS FINCH(サイラス・フィンチ)について触れながら、1冊の本をご紹介します。

※公式ウェブサイトのトップ画面のスクリーンショット

SILAS FINCHは、2009年にKevin Messina(ケヴィン・メッシーナ)により創設された、ニューヨークを拠点とする非営利の芸術団体。アーティスト・機関・企業クライアントとの協働作業により、意欲的な写真プロジェクトにまつわる制作・出版・プロモーションを展開しています。
印刷や映画を制作するデザインスタジオを構えるなど充実した環境を整えつつ、戦略・クリエイティブディレクション・デザイン・特注の出版プロジェクトに関連する制作サービスなどを提供しています。

本書は、写真家・Bryan Schutmaat(ブライアン・シュトマート、1983年アメリカ・テキサス州生まれ)とライター・Ashlyn Davis(アシュリン・デイヴィス、1986年アメリカ・テキサス州生まれ)との共同編集により制作されました。実は、同じくSILAS FINCHより2013年に出版された、Schutmaatの写真集「Grays the Mountain Sends」の展覧会に向けた準備が発端となったようです。

このシリーズのコンセプトは、アメリカ西部のあらゆる情景を描写した歴史的な写真を収集し展示すること。すべてのイメージはデジタルパブリックアーカイブで、いずれも1870年代から1970年代に撮影されました。約1世紀の歴史を捉えた一連の写真は、撮影した写真家も全くもって無名の者からアメリカを代表する大御所までそれぞれです。

このプロジェクトは、自身のルーツでもあるアメリカ西部の複雑さについて、彼らなりに想いを馳せていることが伺えます。
単にSchutmaatが作品における写真の系譜について考えることになったというだけでなく、Davisにとっても、パブリックアーカイブによって共有された歴史を通じて、これらのランドスケープにまつわる歴史を模索するという意味がありました。
この着想は、結果として彼らに大掛かりなロードトリップの機会をもたらすことになります。連れ立ってテキサス西部からニュー・メキシコ、ユタ、アリゾナを経て、国立公園に立ち寄る。道中ではお互いアメリカ西部に関する書籍を読み更けていたそうですが、それでも彼らとしては、本書を真実の物語としてではなく、むしろ写真を用いた詩として認識してもらうことを願っています。

何より注目すべき点は、構成するうえでのシーケンスでしょう。Schutmaatはよりコンセプチュアルに考えている一方で、当初Davisはもう少し逐語的に考えていたのですが、次第に考えを改め、極めてコンセプチュアルな方向へと軌道修正をすることになります。それぞれの写真からは実にたくさんのことが語られているのを感じながらそれらに耳を傾けていくことにより、結果として特定のストーリーを念頭に置くことはせず、ニュアンスを重視した物語へと仕立てていきました。

まるで瞑想のように展開されていく物語は美的感覚をも兼ね備えており、ひとつのイメージから次のイメージへと移ろいでいくようすに、穏やかな気持ちで目を運ばせていくことができます。

ISLANDS OF THE BLEST
Edited by Bryan Schutmaat and Ashlyn Davis
SILAS FINCH
68 pages
Staple binding with letterpress printed cloth cover
292 x 342 mm
ISBN: 978-1-936063-10-9
2014