2041

Added on by Yusuke Nakajima.

[2041]は、ある人物がイスラム圏の女性が身につける衣装「ブルカ」に興味を持ち、その衣装を身につけて撮影したセルフポートレートをまとめた本です。

「ブルカ」の特徴は、頭から足の先まですっぽりと覆われていて、さらに目の部分まで布で隠されています。2041と名乗る男性は、そのブルカを身につけポーズをする写真をSNS上に投稿し続けます。さらにブルカから発展し、自作のブルカ、フードを被って顔を隠しただけといった、ブルカ的な装いへと徐々に変化していきました。

さまざまなシチュエーションで撮影されている写真を見ていても、顔が隠されてしまっているので常に匿名性を帯び、写っているのは同一人物であるにも関わらず被写体のことを想像する余地が全く生まれまれません。元々は宗教上の理由や、砂漠という気候に適した服装として生まれた衣装が、機能を削がれて人物像を覆い隠すだけのものとなってしまった結果、人物像を何も写さず、セルフポートレートにも関わらず写されることを拒否しているかのような不穏なポートレート作品が生まれました。

覆い隠された状況は、ホンマタカシの新作[VAIROUS COVERED AUTOMOBILES]の被写体となっているカバーのかかった車にも共通しています。本来はホコリや汚れを避ける目的で掛けられているカバーですが、その状況だけが切り取られると、不穏な光景へと一転します。シルエットから車種をある程度想像ができても、カバーの下にある車のことは知る由がなく、見られるのを拒否している状況とも言えます。日本ではありふれた光景で、基本的には駐車スペースに収まっているため不穏さに気がつきませんが、下の写真のように普通ではあり得ない場所でこの光景を見たとき、覆われるということによって生じる不可解さが理解できます。

外国では車は汚れるものとして扱われているか、汚したくない高級車を所有している人はきちんとガレージを持っているので、日本で良く目にする車にカバーのかかった状況は外国にはほとんどありません。そのため、日本でカバーのかかった車を見た外国からの訪問者は、ブルカを被ったポートレートを見て私たちが不穏に感じるのと同じような感覚を抱いている人も少なからずいるのでしょう

「覆い隠すことで生じる状況」というのは、それぞれの作品の孕んでいるコンセプトの一部ですが、[2041]とホンマタカシ[VARIOUS COVERED AUTOMOBILES]、根底に共通したテーマを持っている兄弟作品としてぜひ合わせてご覧ください。

2041
HERE PRESS
120 pages
Softcover 
36 x 29 cm
limited edition of 500 copies