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Studio Olafur Eliasson / The Kitchen

Added on by Yusuke Nakajima.

生活を支える「衣」「食」「住」。なかでも「食」は、生命とダイレクトに繋がる不可欠なものです。
創作を生業とするアーティストにとって「食」とは、一体どのようなものなのでしょうか?

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Olafur Eliasson(オラファー・エリアソン)は、1967年デンマーク・コペンハーゲン生まれ、現在はアイスランドを拠点に活動するアーティストです。展示会場(あるいは屋外)に設置されるダイナミックなインスタレーション作品で知られます。
さまざまな形態となってあらわれる彼の作品に共通する点は、自然現象が軸となっていること。光や影、色彩といった、普段わたしたちが日常的に目にする身近な要素を取り込んだ、視覚的に訴え認識を揺さぶるような作品が印象的です。

オラファーのスタジオが自発的に制作を手がける書籍シリーズ「Take Your Time(=TYT)」では、毎回オラファー自身が気になるトピックを入念にリサーチして、一冊の本にまとめています。
本書は、TYTの通算5巻目として2013年に刊行された「The Kitchen」を、3年の時を経た2016年にイギリスを拠点とする大手出版社Phaidon(ファイドン)が再版しました。

めざましい活動を繰り広げる世界的なアーティストであるオラファーは、「食」こそが作品が生みだされる源だという強い信念があります。これに基づき、制作スタジオ内の心臓部ともいえる中心部には大きなキッチンを構えました。
キッチンには専任の調理担当が在籍し、総勢60~70人ほどのスタッフのために日々の食事をこしらえます。
スタジオのスタッフは食事どきになると作業の手を止めてひとところに揃い、大きなダイニングテーブルを囲んで会話を楽しみながら食事をとります。気ぜわしい瞬間が続くであろう制作環境にいても、健康的な食事によって身も心も英気を養うことを欠かしません。
こうしたひとときから、豊かな創作的発想や有意義な意見交換の場が生まれます。

「食」は誰にとっても本質的であり、また平等なものです。
スタジオ内では美術作品の創作過程においてそれぞれに役割や立場が与えられるでしょうが、食卓で肩を並べれば、その関係性はフラットになるのです。

自主的な活動が継続していくことでもたらされた意識改革は、スタジオ内のスタッフにはもちろん、外部のコラボレーターにも波及しています。
本書に序文を寄せているAlice Waters(アリス・ウォータース、1944年アメリカ・ニュージャージー州生まれ)もそのひとり。カリフォルニア・バークレーで、オーガニック食材をふんだんに用いたローカルフードを提唱している伝説的なレストラン、Chez Panisse(シェ・パニース)と聞けば、その名に聞き憶えのあるひともいるのではないでしょうか。
他にも、2015年には全てのスタッフを引き連れて東京に期間限定の出張レストランをオープンしたことが記憶に新しいNOMA(ノーマ)シェフ兼共同オーナーのRené Redzepi(レネ・レゼピ、1977年 デンマーク・コペンハーゲン生まれ)も同様です。

食のことを誰よりも深く考え、志を強く持ち改革へと乗り出す意義深い活動を繰り広げる食の専門家たちと芸術家であるオラファーとでは、一見すると社会的な立ち位置は異なります。しかし、みな「食」に重きを置き、豊かな食習慣によってインスパイアされているという点には変わりありません。
彼らはオラファーのスタジオのキッチンに立ちともに調理をしたり食事をとることを通じて、オラファーのヴィジョンを体感的に会得し、共感するに至りました。

仮にアリスやレネのような食のスペシャリストでなかったとしても、オラファーの価値観に触れることは十分に可能です。
本書には実際にこのキッチンでつくられた100種類を超えるレシピが収録されており、これを手本にしながら自分なりに調理することができます。つまり、実践を通じて彼らの食生活を体験できるのです。
一冊の本を架け橋として、読者にもよき循環が広がっていきます。これは時空を超えて遍く届けられる「本」だからこそなし得ることでしょう。

オラファーの生きることに真摯に向き合う一貫したスタンスには、学びや共感が多く詰まっています。

Studio Olafur Eliasson / The Kitchen
Phaidon
368 pages
Hardback
190 x 255 mm
English
ISBN: 9780714871110
2016

5,690円+税
Sorry, SOLD OUT

Hella Jongerius / Misfit

Added on by Yusuke Nakajima.

めざましい発展を遂げる科学技術と、職人技の光る伝統的な手工業。現代と過去から引き継がれたもの。ハイテクとローテク。それぞれに特色がありますが、対極となるものがそれぞれに持ち合わせる長所を生かしながら融合させることで、オリジナリティあふれるプロダクトが誕生します。

そんな夢のようなことを実現させるのが、オランダ出身のデザイナー、Hella Jongerius(ヘラ・ヨンゲリウス、1963年 オランダ生まれ。現在はベルリンを拠点とする)。彼女の狙いは、工業生産のプロセスのなかで手工業的な要素を用いながら個々の特性を生かしたプロダクトを創作することです。
1993年にデザインアカデミーを卒業後、自身のデザインラボを設立します。間もなくして彼女のデザインがオランダのプロダクトデザイン界で大きな影響を持つDroog Designで採用され、世に広く知られることとなりました。

ヨンゲリウスはプロダクトをデザインするうえで色彩・素材・テクスチャーを入念にリサーチしますが、その作業は決して終わりがないのだと言います。彼女は自身の作品を「果てしなく続くプロセスの一部」だとみなしていて、たとえ正式に発表された作品だとしても未完成で暫定的、可能性を秘めたものだと考えています。欠陥に注意を向け、創作のプロセスをなぞり、素材や技術の潜在力を明らかにするのです。とはいえ、単にプロセスの価値だけを評価するのではなく、観察者・使用者のことも念頭に入れているのは言うまでもありません。

こうした斬新なアプローチに共鳴するひとは後を絶ちません。単独で請け負う案件のほかにも、錚々たるクライアントとの協働作業が実現しています。
代表作でいえば、Maharam(マハラム)社の室内装飾や家具、ニューヨークの国連本部の代表団用ラウンジ、KLM航空の客室デザイン、ウィーンのMAKで開催されたHans Ulrich Obrist(ハンス・ウルリッヒ・オブリスト)をキュレーターとして招いた「Colour Recipe Research」のインスタレーションがあります。また、2012年以降にはヨンゲリウスはラグ(じゅうたん)で知られるDanskina社のアートディレクター、2007年以降にはVitra社の色彩・素材部門のアートディレクターを担っています。なお近年の取り組みとしては、サーペンタイン・ギャラリーのコミッション・ワークによりミラノの百貨店Rinascente(リナシェンテ)に設置されたインスタレーション「A search behind appearances, Shadow play」(2016年)でうかがい知ることができます。

ヨンゲリウスのプロダクトは、デザイン史にも大きな貢献を果たしました。多くがニューヨーク近代美術館(MoMA)、ヴィクトリア&アルバース美術館(ロンドン)、ボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館(ロッテルダム)といった主要な美術館のパーマネントコレクションとして収蔵されていることがその証です。

そんな卓越したセンスをもつヨンゲリウスのめざましい活動をまとめた作品集のブックデザインは、オランダのグラフィックデザイナー、Irma Boom(イルマ・ボーム)によるもの。ソフトカバー製本で、小口を断ち落さない糸中綴じの特徴的な装丁は、イルマがオランダの道端で偶然見かけた、日本のマンガ週刊誌からインスパイアされています。日本に暮らすわたしたちにとってはごく日常的に目にする造本も、異国で暮らす彼女にとっては初めてみるもので新鮮に映ったようです。

想像力に富むヨンゲリウスの型破りな創意工夫がブックデザインへと落とし込まれた結果、デザイナーの仕事ぶりをまとめたモノグラフとして抜群の完成度の高さを誇りながら、同時に協働した各社・団体に対する高い評価にもつながることでしょう。軽やかなデザインの裏に忍ばせた緻密なしかけの積み重ねによって、絶妙なバランス感覚を伴ったダイナミックな一冊に仕上がっています。

Hella Jongerius / Misfit
Phaidon
308 pages
Hardback
185 x 255 mm
English
ISBN: 9780714859873
2010

5,690円+税
Sorry, SOLD OUT

Shiro Kuramata

Added on by Yusuke Nakajima.

哲学・思想・文学・建築…あらゆる領域において「ポストモダン」というキーワードは度々登場します。デザイン家具の世界で担い手となったのは、1981年に結成された多国籍からなるデザイナー集団「メンフィス」でした。

当時イタリアを拠点とし活動していた建築家・インダストリアルデザイナーのEttore Sottsass(エットレ・ソットサス、1917年オーストリア・インスブルック生まれ)が先導し、彼に共鳴した世界各国のデザイナーたちがこぞって参加しました。
モダニズムが追求してきた機能性や合理性を重視する価値観、いわゆる「グッド・デザイン」に対して疑問を呈し、感覚的でユーモアにあふれたデザインを試みました。
総じて刺激的ともいえるほど鮮やかな色彩や、創意に富んだフォルムを多用した奇抜なデザインが特徴です。国際的な家具デザインの祭典であるミラノ・サローネをはじめ多くの展覧会で大きな衝撃を与え、次第に勢力を拡大していきました。
世界のデザインや建築に影響を及ぼしたものの、その革新的なアプローチはあまりに前衛的だったため、賞賛と同等に批判も殺到していたようです。

今回は参加メンバーのひとり、倉俣史朗の完全版ともいえるモノグラフを紹介します。

1934年に東京に生まれた倉俣は、インテリア、プロダクト、家具、果ては空間デザインと幅広いジャンルの作品を手がけ、ポストモダン家具の旗手として一時代を築きました。目覚ましい活躍ぶりをみる前に、まずは彼のキャリアの始点までさかのぼってみましょう。

桑沢デザイン研究所で家具製作を学んだのち、家具製造の「帝国」を経て、婦人服を扱う「三愛」の宣伝課に企業内デザイナーとして7年間在籍しました。一口にデザインといってもその仕事内容は多岐にわたり、広告やプライスタグといったグラフィックデザインからショップインテリアやディスプレイデザインと何役もこなしていたようです。ここでの経験が、のちの彼のキャリアステップに大きな影響を及ぼします。

1965年には倉俣デザイン事務所を設立し、独立を果たします。
イッセイミヤケの店舗の内装デザインをはじめ、前衛美術作家の高松次郎やグラフィックデザイナーの横尾忠則、挿絵画家・グラフィックデザイナーの宇野亜喜良といったクリエイターとの協働により、精力的に作品の発表を重ねてきました。

卓越した創作力と終わりなき発明のセンスとを最大限に発揮し、一度みたことのあるひとならば一目みただけで倉俣の作品だとわかるような独創性の高さは、ひとえに日本ならではの美意識があってこそ。西洋にもアジアにも寄らず、世界的に浸透している伝統的な日本のスタイルともまた離れたところにいます。

素材の質感というのは際立った特色のひとつでしょう。
例えば、メッシュ状のエキスパンドメタルを使ったアームチェア「How High the Moon(ハウ・ハイ・ザ・ムーン)」や、透明なアクリル板のなかに紙製の造花を閉じ込めた椅子「Miss Blanche(ミス・ブランチ)」といった名作たち。これらはいずれも視覚的な面での質感を意識させない、もっと言えば重力を感じさせないような軽やかさがあります。
単なる軽快さだけならば比較的容易に取り入れやすいでしょうが、彼の作品の場合、透明な素材や曲線的なフォルムのなかに直線的な要素を効果的に採り入れることによって、しなやかさと硬質さとが絶妙なバランスのうえに成立しているのです。
近未来的な出で立ちをしながら、侘び寂びの感覚をも彷彿させる。これぞ倉俣デザインの真骨頂ではないでしょうか。

倉俣は1958年から他界する1991年までのあいだに600点以上の作品を発表してきました。
実は、意外にも現存するものが少ないうえに、写真などの記録資料が紛失したりそもそも記録されていなかった作品も少なくなかったとか。
本書ではその全作品を網羅し、それぞれの図版とリストが収録されています。
透明なアクリルのスリーブケースに収められた2冊組の包括的な作品集でありながら、カタログ・レゾネともいえる本書は、倉俣史朗のデザイナーとしての生涯を追うのにうってつけの素晴らしいアーカイブです。

Shiro Kuramata
Phaidon
416 pages
2 Volume Hardback in Acrylic slipcase
238 x 305 mm
English

ISBN: 9780714845005
2013
19,000円+税
SOLD OUT