Shiro Kuramata

Added on by Yusuke Nakajima.

哲学・思想・文学・建築…あらゆる領域において「ポストモダン」というキーワードは度々登場します。デザイン家具の世界で担い手となったのは、1981年に結成された多国籍からなるデザイナー集団「メンフィス」でした。

当時イタリアを拠点とし活動していた建築家・インダストリアルデザイナーのEttore Sottsass(エットレ・ソットサス、1917年オーストリア・インスブルック生まれ)が先導し、彼に共鳴した世界各国のデザイナーたちがこぞって参加しました。
モダニズムが追求してきた機能性や合理性を重視する価値観、いわゆる「グッド・デザイン」に対して疑問を呈し、感覚的でユーモアにあふれたデザインを試みました。
総じて刺激的ともいえるほど鮮やかな色彩や、創意に富んだフォルムを多用した奇抜なデザインが特徴です。国際的な家具デザインの祭典であるミラノ・サローネをはじめ多くの展覧会で大きな衝撃を与え、次第に勢力を拡大していきました。
世界のデザインや建築に影響を及ぼしたものの、その革新的なアプローチはあまりに前衛的だったため、賞賛と同等に批判も殺到していたようです。

今回は参加メンバーのひとり、倉俣史朗の完全版ともいえるモノグラフを紹介します。

1934年に東京に生まれた倉俣は、インテリア、プロダクト、家具、果ては空間デザインと幅広いジャンルの作品を手がけ、ポストモダン家具の旗手として一時代を築きました。目覚ましい活躍ぶりをみる前に、まずは彼のキャリアの始点までさかのぼってみましょう。

桑沢デザイン研究所で家具製作を学んだのち、家具製造の「帝国」を経て、婦人服を扱う「三愛」の宣伝課に企業内デザイナーとして7年間在籍しました。一口にデザインといってもその仕事内容は多岐にわたり、広告やプライスタグといったグラフィックデザインからショップインテリアやディスプレイデザインと何役もこなしていたようです。ここでの経験が、のちの彼のキャリアステップに大きな影響を及ぼします。

1965年には倉俣デザイン事務所を設立し、独立を果たします。
イッセイミヤケの店舗の内装デザインをはじめ、前衛美術作家の高松次郎やグラフィックデザイナーの横尾忠則、挿絵画家・グラフィックデザイナーの宇野亜喜良といったクリエイターとの協働により、精力的に作品の発表を重ねてきました。

卓越した創作力と終わりなき発明のセンスとを最大限に発揮し、一度みたことのあるひとならば一目みただけで倉俣の作品だとわかるような独創性の高さは、ひとえに日本ならではの美意識があってこそ。西洋にもアジアにも寄らず、世界的に浸透している伝統的な日本のスタイルともまた離れたところにいます。

素材の質感というのは際立った特色のひとつでしょう。
例えば、メッシュ状のエキスパンドメタルを使ったアームチェア「How High the Moon(ハウ・ハイ・ザ・ムーン)」や、透明なアクリル板のなかに紙製の造花を閉じ込めた椅子「Miss Blanche(ミス・ブランチ)」といった名作たち。これらはいずれも視覚的な面での質感を意識させない、もっと言えば重力を感じさせないような軽やかさがあります。
単なる軽快さだけならば比較的容易に取り入れやすいでしょうが、彼の作品の場合、透明な素材や曲線的なフォルムのなかに直線的な要素を効果的に採り入れることによって、しなやかさと硬質さとが絶妙なバランスのうえに成立しているのです。
近未来的な出で立ちをしながら、侘び寂びの感覚をも彷彿させる。これぞ倉俣デザインの真骨頂ではないでしょうか。

倉俣は1958年から他界する1991年までのあいだに600点以上の作品を発表してきました。
実は、意外にも現存するものが少ないうえに、写真などの記録資料が紛失したりそもそも記録されていなかった作品も少なくなかったとか。
本書ではその全作品を網羅し、それぞれの図版とリストが収録されています。
透明なアクリルのスリーブケースに収められた2冊組の包括的な作品集でありながら、カタログ・レゾネともいえる本書は、倉俣史朗のデザイナーとしての生涯を追うのにうってつけの素晴らしいアーカイブです。

Shiro Kuramata
Phaidon
416 pages
2 Volume Hardback in Acrylic slipcase
238 x 305 mm
English

ISBN: 9780714845005
2013
19,000円+税