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Christien Meindertsma / PIG 05049 (6th Edition)

Added on by Yusuke Nakajima.

情報伝達が発達した現代社会では、ある情報が発信された途端、瞬く間に拡散していきます。その流れは止まることを知らず、あっという間に淘汰されていくのもまた事実です。真偽のほどや出処すらわからない無数の情報に翻弄されて、独りでは真っ当な判断を下すことすら困難な局面もあります。不要な情報があふれている一方で、案外知らないままになっていることも多いのかもしれません。

複雑かつグローバル化したこの世界では、原料と生産者・製品・消費者の結びつきを解明することもまた、難しくなってきたことのひとつではないでしょうか。

わたしたちの身のまわりにあるものが、一体何からできているか?普段あまり考えが及ばないような事象に着目し、徹底的にリサーチを続け、それを誰もがわかりやすい形で図案化した人物がいます。
彼女の名前はChristien Meindertsma(クリスティン・メンデルツマ、1980年オランダ・ユトレヒト生まれ)。以前このページで「HET VERZAMELD BREIWERK VAN LOES VEENSTRA」や「BOTTOM ASH OBSERVATION」をご紹介した、オランダを拠点とするグラフィックデザイナーです。

本書で主題に掲げられているのは「ブタ」。メンデルツマは3年の月日を費やして「05049」とナンバリングされた一頭のブタから生産されるすべての製品を調べあげました。
自らの手と足を使って綿密な調査を続けるなかで明らかになったのは、私たちの予測を遥かに上回る多くの製品にブタを原料とする素材が使われていることでした。弾薬・医薬・写真用紙・心臓弁・ブレーキ・チューイングガム・磁器・化粧品・タバコ・コンディショナー・バイオディーゼル…その数はなんと185種類。屠殺後まもなく部位ごとに分類され、その部位ごとにさらに細分化され、最終的にあらゆる素材に使用されていました。
すべて原寸大(1:1)で収録された製品のビジュアルをみていくと、原型をとどめていたり本来の機能を生かした製品もあれば、劇的に乖離したような製品もあったりとさまざまです。

まるで外科手術で解剖するかのように突き詰めていった先にできたカタログの構成も、言うなれば研究者向けの資料のごとく、部位ごとに章立てたうえで巻末にはインデックスにもまとめなおされました。
背には、個体識別のために耳につけられたタグのレプリカが付せられています。
シリアスなトピックを扱いながら、手に取りたくなるような物質的にも魅力的なブックデザインを施す。遊びごごろのあるオランダならではのバランス感覚に脱帽です。

書籍のコンテンツもさることながら、「TED」でメンデルツマ自らが「TED」に登壇したことも見逃せません。プレゼンテーションではリサーチの流れを詳しく解説するだけでなく、舞台裏の知られざるストーリーにも触れています。
実地踏査の結果を書籍やプレゼンテーションという形態を通じてアウトプットし、より多くのひとたちに実情を知ってもらおうと努める姿から、並々ならぬ情熱を感じ取ることができます。

※TEDのリンク
https://www.ted.com/talks/christien_meindertsma_on_pig_05049?language=ja


このプロジェクトは、純粋なる好奇心の賜物という範疇を軽く超え、もはや信頼性の高い研究成果といっても差し支えないでしょう。示唆に富む知的なリサーチを受けて、わたしたちがこれから考えるべきことが浮き彫りになっていきます。

Christien Meindertsma / PIG 05049 (6th Edition)
Flocks
196 pages
Paperback
140 x 200 mm
Dutch / English
ISBN: 978-90-812413-1-1
First edition was published in 2007

6,200円+税

Christien Meindertsma / BOTTOM ASH OBSERVATORY

Added on by Yusuke Nakajima.

オランダのグラフィックデザイナーChristien Meindertsma(クリスティン・メンデルツマ、1980年オランダ・ユトレヒト生まれ)は、デザイナーという立場から、製品と原材料の生涯に着目しています。彼女の手がけた書籍は以前このページでもご紹介したことがあるので、記憶にあるかもしれません。

彼女の新たなプロジェクト「Bottom Ash Observatory」が、百科事典のような書籍にまとまりました。

今回メンデルツマが着目したのは、清掃工場の焼却炉の底から回収されるボトムアッシュ(焼却主灰)。100kgの家庭ゴミや産業廃棄物を焼却した残留物、つまり「廃棄物の廃棄物」で満たされた重さ25kgのバケツを通じて、160ページにわたり興味深いアプローチを展開しています。

巻頭の折込み図版には清掃工場の見取り図で説明された焼却のフローを経て、あらわれたボトムアッシュをふるいにかけ、乾燥させ、レーザー分析し、手作業で何万もの破片に分離して、おびただしい数の素材を抽出し続けます。大きさや素材の種類に応じて分類することで、ボトムアッシュの構成要素がより明確になっていくのです。

このプロセスを経て、最終的に亜鉛・アルミニウム・シルバーなど、もっとも価値のある12個の素材を溶解するに至りました。それを清潔なシリンダーに入れて提示し、ボトムアッシュの豊かさを端的に表しています。
構成要素を分離することで、結果として廃棄物に対して付加価値をつけるという極めて急進的なアプローチを通じて、メンデルツマはこの豊かな都市の鉱石の沈殿物が我々をどこへ導きうるかということを例証しています。

本書の共同著者であるフォトグラファーのMathijs Labadie(マーティス・ラバーディエ)は、このプロセスの全ての段階を事細かに捉えました。望遠鏡的な視点でもってボトムアッシュへレンズを近づけることで、素材の塊が彗星や隕石のように現れます。ふるいにかけられたボトムアッシュが入ったバケツはまるで惑星のような外見を帯び、一方で価値のある素材で満たされたシリンダーさえも、プラネタリウムのような神秘的な気高さを孕んでいます。
メンデルツマとラバーディエが記録したボトムアッシュの解体の精密さは、科学的な正確さを伴いながら、新しく発見された原燃料を描写する18世紀の旅行記へと立ち返ります。

そして、例えば破片のポートレイトの貼込みをめくると断面図が表れるなど、貼込みや折込み図版を効果的に挿入した造本は、読者にも「調査」を彷彿させ、臨場感を演出することでより深い興味を引き出すことに一役買っています。

2015年、我々はもはや新たな素材を見つける旅に出発する必要はなくなりました。今日の我々の挑戦は、身近な資源における新しい使い道を探すこと。本書では、ボトムアッシュという資源における無限大の汎用性を実践しているのです。

Christien Meindertsma / BOTTOM ASH OBSERVATORY
Thomas Eyck
160 Pages
Hardcover
300mm x 420mm
English
Edition of 2,000 copies
ISBN: 9789081865210
2015