20世紀を代表する巨匠といえば、パブロ・ピカソを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?
絵画、彫刻、陶芸…と、表現方法に捉われない独創的な作品を手がけてきた功績は言うまでもないことですが、実は他のクリエイターとのコラボレーションにも積極的でした。なかでも写真家との協働は多かったようで、相棒にはマン・レイ、ドラ・マール、ブラッサイ、デイヴィッド・ダグラス・ダンカンといった錚々たる写真家が挙げられます。
しかし、ピカソの制作過程と完全に融合したフォトグラファーはただひとりでした。その名も、アンドレ・ヴィラール。彼は第二次世界大戦の苦難により骨結核を患い、製陶の中心地で知られる南仏のヴァロリスにあるサナトリウムで療養していました。ここでの療養生活のなかで写真と出会い、それ以来情熱を注いできました。
ピカソは1953年3月、この地にある陶芸スタジオでの作業中にヴィラールと出逢いました。キュビズムの時代以降、写真はピカソの彫刻にとってお気に入りの「実験室」であり続け、「固体/空間」「形/スペース」「光/影」において双方に共通する関心を募らせていました。そんななかで邂逅したふたりの男性はたちまち意気投合し、ヴィラールの写真に興味を持ったピカソから共作をしようと提案したのです。
その後約10年の歳月をかけて、ピカソとヴィラールは写真を通じた実験を行い、写真と彫刻との間にある境界線を越える道筋を探し求めました。
ある作品シリーズでは、ピカソは描き、切り抜き、ピンで留め、アクセントをつけ、紙で「ネガ」を作ります。それをヴィラールが撮影してプリントし、フォトグラムの手法や解釈・演出などを反映して変容させます。また別の作品シリーズでは、印画したヴィラールの写真作品を素材にして、ピカソがそれを切り抜いて彫刻作品に仕上げます。
1954年から61年のあいだに制作されたマスクや動物をモチーフにした作品だけでも700点ほどにのぼるほど、精力的に取り組んでいたようです。
もはや「ミクストメディアの発明」と表現しても過言ではない両者の協働作業は、ピカソの絵画作品に刺激を与え、紙や板金を素材にした彫刻作品をも引き立たせました。一方のヴィラールにとっても、のちの探究心の礎となったようです。
この経験を原点として、今度は自分自身でも写真以外の創作活動へと勤しんでいきました。例えば、雑誌・新聞・トレーシングペーパーから切り抜いて自身のネガをつくり、それらを感光したり現像液で洗ったりして「ペイント」する。透明フィルム・イメージのレイヤー・テキストを使ってエフェクトを加える。パステルでアクセントをつけた厚紙や紙、生地のスクラップを彼のプリントに取り込む。紙とハサミを使って儚げで小ぶりな彫刻をつくる。往年の巨匠たちの作品の一部を拝借して素材に起用したコラージュへと再構成してデジタル写真を撮影するなど。
ピカソとの共作で得た糧である、実験的な取り組みに果敢に臨んでいく姿勢はここでも健在です。
今回、ガゴシアン・ジュネーヴで開催されたヴィラールの展覧会と本展にあわせて出版された展覧会カタログでは、ふたりの共作やヴィラール単独の作品群を通じて、彼らの友情と協働作業の集大成がふんだんに展開されています。鏡越しに捉えたヴィラールとピカソのセルフポートレイトやヴィラールが暮らしたヴァロリスの街並みを映したショットを見れば、その当時の情景や空気感をうかがい知ることができます。
また後半部分にはピカソの彫刻作品、新聞紙を支持体にして炭で描いた平面作品、キュビズム時代の作風が色濃く反映されたペインティングが収録され、ピカソファンにとっても満足できる内容です。
Villers | Picasso
Gagosian
508 pages
Hardback
247 x 247 mm
English / French
ISBN: 978-1-938748-30-1
2016
12,000円+税
Sorry, SOLD OUT