オランダの写真家・Viviane Sassen(ヴィヴァン・サッセン、1972年 オランダ・アムステルダム生まれ)は、MIU MIUやルイ・ヴィトンといったビックメゾンの広告写真から、「Purple」「花椿」といった雑誌に至るまで、ファッションフォトグラファーとしてめざましい活躍を繰り広げています。
その傍らで自主的な作品制作にも精力的に励んでおり、世界有数の写真賞(アワード)として知られる「ドイツ証券取引所写真賞」の最終選考にノミネートされたり、オランダ国内外の美術館や著名なギャラリーで個展を重ねています。
一時期南アフリカに住んでいた経験は、彼女の作風にオリジナリティをもたらしました。
彼女の作品を語るうえで不可欠な要素、それは「影」です。
鮮やかな色彩、まばゆい光と深い影とが織りなすコントラストの強い情景が、まるで彫刻のようなフォルムをつくります。影になることで輪郭が際立ち、ミステリアスな印象を強めます。
影は、不安や欲望のメタファーとして、記憶と未来への希望というふたつのシンボルとして、また想像と空想の喚起とも捉えられます。
示唆に富むコンセプチュアルなアプローチは独自性と実験的要素にあふれ、リアリズムと抽象表現との巧みな相互作用によって鑑賞者を翻弄します。具象的なモチーフを被写体にしながら、抽象表現へと昇華していく感性は見事なものです。
本書は、2014年にオランダ写真美術館(ロッテルダム)で開催された彼女の個展で発表された[UMBRA]シリーズがもとになっています。
タイトルの[UMBRA]は、ラテン語で「影」という意味。写真だけでなく、映像やドローイングを取り入れながら、彼女がこれまでに主だってテーマに掲げてきた影によって、ページいっぱいに空間的インスタレーションが繰り広げられます。
本書の制作に際して、デザインを手がけたIrma Boom(イルマ・ボーム)の存在を欠かすことはできません。
ユニークな造本で知られる彼女のアートワークに慣れ親しんだひとからすると、本書のたたずまいは一見端正でおとなしい印象を受けるかもしれません。しかし、いざページをめくってみると、イルマらしいウィットに富んでいることを感じさせてくれます。
まずは中面のページに用いられている紙質に着目してみましょう。腰のある光沢紙と、柔らかくざらつきのある薄紙を織り交ぜて綴じられていますが、後者の薄紙をよく見てみると、上部だけ袋とじになっています。これは、ページの4倍サイズの紙を十文字状に折ってから綴じているのです。
上部袋とじをした箇所には、自ずと表面のページだけでなく裏面にもページが生まれます。ここに、本作でコラボレーションをしたアーティスト・詩人のMaria Barnas(マリア・バルナス)の詩が収録されています。軽くめくって覗き込むようにして見るという行為は、どこか秘密めいた感覚を呼び起こします。
紙質や綴じ方によって生まれた緩急のあるページネーションは、読者が本書を見ていくうえでいいリズムを生み出し、写真集という形になることでひとつながりのシーケンスとして完成するのです。
Viviane Sassen / UMBRA
Prestel
196 pages
200 color illustrations
Paperback, with flaps
260 x 350 mm
English
ISBN: 978-3-7913-8160-2
2015/10