Sanne Sannes / Copyright

Added on by Yusuke Nakajima.

1960年代のオランダ写真の文脈を物語るうえで挙げられる写真家は数多いるけれど、独創的な作品で今もなお一部で熱狂的な支持者を増やし続けているSanne Sannes(サンネ・サンネス、1937-1967)の功績は大きなものです。2011年3月にlimArtで開催された彼の日本初となる写真展でその存在を知った方も多いかもしれません。

サンネスの作品は粒子が粗く、クローズアップでピンボケだらけのモノクロ写真。長年抱き続けていた映画監督になりたいという野望によって、被写体の動きが手に取るようにわかる空気感をかもしだすことにつながっています。
捕らえどころがなく、暗く、エロティックで親密。そこに恐怖や危険の匂いが漂います。彼の特徴を一言で表すにはあまりにも難しいです。


被写体の女性たちはだいたいが単独か、時に恋人と思わしき他者と絡み合う姿が映し出されています。サンネスがレンズを向けていることなどお構いなしのように振る舞うようすは、秘め事をを覗き見ているかのような後ろめたさがよぎります。
見るからにエクスタシー状態であろう妖艶な雰囲気を醸し出す彼女たちの姿はまるで少女のように伸びやかで、カメラレンズや写真家にはもちろん、世の男性が女性に求める官能的な女性像に対して媚びることもなく、自由で解き放たれています。
撮影当時は女性は社会的にも制圧を受けていたことは想像に難くなく、こうした時代背景を鑑みても極めてセンセーショナルであったことでしょう。この独特な世界観は一度観てしまうと脳裏に焼き付いて忘れることができません。
この情熱的で恍惚とするような魅惑的なセッションを通じて、本人たちさえも知られざる内面を引き出していきます。

サンネスのアーティスト/写真家としてのキャリアは、1955年に彼の故郷であるオランダ・フローニンゲンのミネルヴァ・アートアカデミーに入学したことを契機として始まりました。
在籍時の専攻は絵画とグラフィックでしたが、副専攻として写真のクラスにも参加していたようです。1959年に写真を主専攻として卒業することができないことがわかると、アートスクールでの活動を続ける意味がないとして退学し、直ちに兵役に召集されました。
この悲劇的な展開のなかでもサンネスはなんとか暗室との接点を得て、自由かつ広範にわたってさまざまな印刷技術にまつわる実験を重ねることができました。その傍ら、空き時間でSmitとともにレッスンを続けていました。
アートスクールに在籍していた束の間のひとときはきっと取るに足りないことなのでしょうが、しかしサンネスが写真家とアーティストとしての礎を築く大事な時期となったことでしょう。

サンネスは決して、自身を写真家としてカテゴライズしていませんでした。彼にとって写真は、自分の芸術表現のためのたかがひとつのツールに過ぎません。それゆえ制作のうえで「悪い」方法や技術を使うことに対しても気後れすることはなかったのでしょう、写真の技術やスタイルについて臆することなく実験を重ねていきました。
ネガを細かく切っては再び貼り付けたり、ニードルやサンドペーパーを使って表面を傷つけたりと、周囲が驚くような手法を果敢に取り入れながら表現していきます。このプロセスによってイメージのディテールは存分に誇張され、ピンボケで描写されたり粒子の荒さを強調していきます。仕上がったプリントにさえも道具を用いてダメージを加えることもありました。
意図的にプリントの技術を巧みに操ること、サンネスがグラフィックデザインの訓練を重ねていたことの影響が色濃くでています。彼は写真のもとの要素をできるだけそぎ落としていき、もっとも伝えたいコアの部分を作品を通じて再現しました。

サンネスが伝説的な存在とならしめる要因は、彼に降りかかった悲劇的な出来事にもあるでしょう。彼は30歳の誕生日の翌日に交通事故に見舞われ、命を奪われました。写真家としてのキャリアはわずか8年、まだ人間としても表現者としても途上の身でした。

短い人生のなかで、20世紀におけるもっとも印象的な写真作品を遺した彼の取り組みを包括的にまとめた本書は、写真界にとっても素晴らしい遺産となりました。

Sanne Sannes / Copyright
Hannival Publishing
352 pages
Hardback
244 x 305 mm
English
ISBN: 9789492081476
2015

7,200円+税
Sorry, SOLD OUT