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Roman Singer / VERNISSAGE

Added on by Yusuke Nakajima.

1938年スイス出身のRoman Signer(ロマン・シグネール)は、今日のヨーロッパにおいて最も注目されているアーティストのひとりです。手がける作品は彫刻、インスタレーション写真、ビデオなど多岐にわたりますが、いずれも得体の知れない風変わりな作風という点で一貫性があります。
コムデギャルソンの1988年春夏の広告では、長靴から水が溢れ出るイメージビジュアルが起用されましたが、この印象的な作品もシグネールによるものです。

本書は、シグネールが70歳の誕生日を迎えたことを記念して出版されました。
1973年以降に開催された彼の展覧会にあわせて制作された、インビテーションカード(案内状)や広告といった印刷物のなかから150点を厳選して収録しています。

展覧会を告知し、集客を図る目的で作成されるインビテーションカードは、単に情報を記載した印刷物というだけではその役割の一部も担えていない。一目見ただけでその展覧会に興味を引き、実際に足を運んでもらうように仕向けることがねらいです。シグネールの場合、作品の素材や表現方法がその都度異なるので、当然インビテーションカードに掲載されるイメージビジュアルも様変わりしますが、カードを作成する際には判型やレイアウト、フォントに至るまで作風に応じて選んでいるようです。
毎回趣向を凝らして制作されたインビテーションカードが時系列に編集された本書のページをめくっていくと、年代ごとにシグネールが何に関心を寄せていたか、そして感受性をどのように発揮していたのか、その変遷がみてとれます。ある意味、作品と同様、あるいはそれ以上に、彼ならではの美学が端的にあらわれているといっても過言ではないでしょう。

一方で、こうしたカードの類いは、エフェメラ(「儚いもの」の意味)という呼称からもわかるように、すぐに捨てられてしまう宿命もあります。しかし、時を経てある程度まとまった数が集結すると、その価値は十分に高まります。
現代美術史におけるミニマムな史料という観点からしても、本書のように一連のインビテーションカードのアーカイブをまとめるということは、とても意義深いことです。

 

Roman Singer /  VERNISSAGE
Scheidegger & Spiess
324 Pages
Hardback
30.5 x 24 cm
English and German
ISBN 978-3-85881-224-7
2008