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In the Studio

Added on by Yusuke Nakajima.

普段創作をしないいち鑑賞者の立場からすると、アーティストやクリエイターの作品が制作されるスタジオ(アトリエ)というものはまるで神聖なる空間のように感じるところがあり、そこで生み出される作品ともども、非常に魅力的なように映ります。一方、同じく創作に打ち込む身にとっても、他のクリエイターがどんな空間で制作に打ち込むのだろうかと、興味を惹かれることは間違いありません。

実はスタジオを写し出した美術作品にはとても深い歴史があり、写真集を目にすることは度々あります。
今回、世界中のトップアーティストの作品を扱ってきたGAGOSIAN(ガゴシアン) では、非常に興味深い展覧会「In the Studio」が開かれたようです。

John Elderfield(ジョン・エルダーフィールド、1943年イギリス・ヨークシャー生まれ)とPeter Galassi(ピーター・ガラッシ)というふたりのキュレーターの尽力により、絵画と写真というふたつのアプローチから迫る展覧会が同時開催されました。この対になった展覧会のねらいとは、これらのふたつの表現手段における主題の発展において重要なテーマを模索することです。

2003年から2008年にかけてニューヨーク近代美術館(MoMA)で名誉ある絵画・彫刻部門のチーフキュレーターを務めたエルダーフィールドは、本展のうち「Paintings」をキュレーションし、16世紀半ばから20世紀末にかけて、40名近くのアーティストにより制作された50点以上の絵画や紙を支持体にした作品が出展されました。

Henri Matisse(アンリ・マティス)、Pablo Picasso(パブロ・ピカソ)などの作品から、極めて早く長い慣習的なモチーフ、例えばイーゼルを前にした画家、教育的な情景、アーティストとモデルのイメージなどが並びます。
また、Constantin Brancusi(コンスタンティン・ブランクーシ)、Alberto Giacometti(アルベルト・ジャコメッティ)といった、のちに歴史となったスタジオのあるべき姿そのものにフォーカスしています。

「虚構の、あるいは空想上のスタジオ」というのは、19世紀末以降人気を博した主題ですが、Diego Rivera(ディエゴ・リベラ)らのキャンバス作品が挙げられます。
一方、アーティストの素材を重要視した動きは、Jean-Baptiste Siméon Chardin(ジャン・シメオン・シャルダン)の18世紀の作品から、19世紀のCarl Gustav Carus(カール・グスタフ・カールス)やAdolph von Menzel(アドルフ・フォン・メンツェル)の作品まで起源を追うことができるでしょう。
そして、戦後のアーティストのJim Dine(ジム・ダイン)やJasper Johns(ジャスパー・ジョーンズ)に至ります。

アーティスト自身の作品と他のアーティストの作品がともに描かれたスタジオの壁面の描写は、戦後時代には至る所で目にしました。
そこには、Roy Lichtenstein(ロイ・リキテンスタイン)、Robert Rauschenberg(ロバート・ラウシェンバーグ)といった面々の作品を見出すことができます。

本展に出展された絵画のなかには、これまでニューヨークで披露されたことがなかった作品もありますが、なかでも同じく出展されたピカソによる一対の作品「L'Atelier(1927-28年)」は、これまでアメリカ国内でもペアで展示されたことはありませんでした。

※注釈:他に作品が収録されているアーティスト
Wilhelm Bendz(ヴィルヘルム・ベンツ)、Honoré Daumier(オノレ・ドーミエ)、Thomas Eakins(トマス・エイキンズ)、Lucian Freud(ルシアン・フロイド)、Jean-Léon Gérôme(ジャン=レオン・ジェローム)、William Hogarth(ウィリアム・ホガース)、Louis Moeller(ルイス・モーラー)、Alfred Stevens(アルフレッド・スティーブンス)、James Ensor(ジェームス・アンソール)、Jacek Malczewski(ヤチェク・マルチェフスキ)、Philip Guston(フィリップ・ガストン)、Richard Diebenkorn(リチャード・ディーベンコーン)、Larry Rivers(ラリー・リバー)など。

同じくMoMAで写真部門の5代目チーフキュレーターを務めたガラッシは、本展のうち「Photographs」をキュレーションし、写真の黎明期から20世紀末に及ぶ、50名以上の写真家による150点近くの作品が出展されました。

展示は贅沢な3部構成で、いずれもアーティストのスタジオのイメージにおける隣接した主題です。
ひとつは、スタジオを「ポーズとペルソナ」のための活動の場と捉えて認識したアプローチ。躯体を飾るための人がつくった区画や、Eadweard Muybridge(エドワード・マイブリッジ)、Brassaï(ブラッサイ)、Walker Evans(ウォーカー・エヴァンス)から、Richard Avedon(リチャード・アヴェドン)、Lee Friedlander(リー・フリードランダー)、Cindy Sherman(シンディ・シャーマン)の作品が連ねます。
ここに集められたヌードやポートレイト写真は、それらがセッティングの役割認めている、ないしポーズの思慮深さを引き立たせる、もしくはペルソナの意図的な制定を強調するという点において典型的なものだと言えます。

第2セクションは、「4つのスタジオ」。写真をより徹底したセレクションで構成されており、ブランクーシ、André Kertész(アンドレ・ケルテス)(※パリにあるPiet Mondrian(ピエト・モンドリアン)のスタジオで撮影された)、 Lucas Samaras(ルーカス・サマラス)、Josef Sudek(ヨゼフ・スデック)のスタジオが、全体的に美意識の高い環境としてお目見えします。
これらの写真(モンドリアンのものを含む)はいずれも、スタジオが我が家であると同時に作業場でもあり、ユニークかつアーティスティックなアイデンティティが具現化したものであり、おそらくそれを実現するひとつの手段として、包括的に美的な環境となりました。

最終章となる第3セクションは、「イメージのきまり悪さ」。
John O'Reilly(ジョン・オレイリー)、ラウシェンバーグ、Weegee(ウィージー)や他の写真家が撮影した作品は、蓄積やイメージのディスプレイの場として、スタジオの壁を埋め尽くします。

歴代の巨匠たちが手がけたスタジオの情景を切り取った絵画や写真の作品を通じて、普段や表立って語られることのない制作風景にも目を向ける機会がもたらされます。
作品を舞台としたら、舞台裏での出来事を垣間見ることで、作家や作品により深い興味や理解が芽生えるということは、今後の鑑賞に対する洞察力が高まるでしょうし、また表現者にとっては自身の制作にも一役買うはずです。

 

In the Studio
Gagosian
2 books in slipcase
In the Studio: Paintings: Essay by John Elderfield, and extended plate captions by John Elderfield and Lauren Mahony; 180 pages; Fully illustrated
In the Studio: Photographs: Essay by Peter Galassi; 188 pages; Fully illustrated
254 x 330 mm
English
ISBN: 978-0-714870-26-7
2015