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Carl Andre: Sculpture as Place 1958-2010

Added on by Yusuke Nakajima.

Carl Andre(カール・アンドレ、1935-:アメリカ・マサチューセッツ州生まれ)は、一般的に彫刻家として認識されることが多いですが、前衛的な詩の制作にも精力的に取り組んでいました。その作品数は、驚異的なことに彫刻作品の2,000点に匹敵するほどだと言われています。

本書は、アンドレの50年にわたるキャリアの集大成ともいえる大規模な回顧展にあわせて出版されました。彫刻と詩に主軸を置きながら、これまで出版されたことのなかったコンクレート・ポエムにも言及しつつ、手紙・ポストカード・重要なインスタレーションにまつわる書類などが豊富に収録されています。密度の濃い構成を通じて、現代美術史において不可欠な存在であるアンドレに対する理解をもたらします。

20世紀を代表する彫刻家としてまず名前が挙がってくるのが、Constantin Brancusi(コンスタンティン・ブランクーシ、1876-1957: ルーマニア・ペシュティシャニ生まれ)。装飾的な要素を極力削ぎ落とした独創的な抽象彫刻を手がけたことから、ミニマル・アートの先駆者も評されます。
彼の作品自体や制作にまつわる思想がもたらした後世への影響は計り知れないほどで、アンドレもまた大いに感化されたひとりです。

1950年代以降、アンドレは木を用いた卓上サイズ程度の幾何学的な彫刻作品の制作を始めました。また1958~59年には、戦後アメリカの抽象絵画を牽引したFrank Stella(フランク・ステラ、1936-:アメリカ・マサチューセッツ州生まれ)とアトリエを共有したことが契機となり、ステラの展開するハードエッジ(直線や色彩によるシャープな輪郭線で構成される極めて平面的な絵画作品)の特性にも刺激を受けました。

こうした出来事が重なって、次第にアンドレは自身の職人気質に対する限界を痛感するようになり、一度は自身の手によって造作される彫刻作品の制作から手を引いてしまいます。道具を手放したその手には新たに電動工具を携え、厚板からほっそりとした柱へと加工したり、彼の背丈まで山積みにしていたようです。

転機を経た60年代半ばには、金属・耐火レンガ・石などの素材を手を加えずに用いて、そのまま空間に配置することで成立する大掛かりな彫刻作品を発表するようになります。
広さや間取り、採光といった展示空間の特性を考慮して現場で構想されるサイトスペシフィックな彫刻作品は、「場所ありきの彫刻」なのです。

時を同じくして、アンドレは自身の貪欲な知力や詩に関する深い愛着、そして当時の社会情勢を受けて左翼的(急進派)な政策への関与が高じて、自身から湧き上がる疑問に対してより鋭敏になっていきます。
こうした変化を受けて、スタジオでタイプライターを作ることを通じて自身の彫刻に対する理解をはっきりとさせていくようになりました。
この時期にしたためた作品だけでも1,300ページに及びます。素材と英語と繊細な結びつきに関心を向けた作品は、ひとつの金字塔といっても差し支えないでしょう。

アンドレは「芸術は創作的なエネルギーの投資だけではなく、批評的能力を研ぎ澄ませることでもある。わたしは、芸術は本当に開かれた集合体であると考えている。(中略)物事にはクオリティがある。クオリティを見極めろ」と述べています。

彫刻制作と執筆活動に関するアンドレの探求の核心にあったのは、彫刻と執筆における具体性、ことばと事象の形態、アーティストが歴史的発展のなかでどのように影響を及ぼすかといったことについて考えをめぐらせることに他なりません。現状に対する暗号を解くことを目論み、最終的には芸術を経験の領域へとシフトすることを臨んでいました。

探求の末に、アンドレはふたつの気づきを得ます。
ひとつは、彫刻や詩にまつわる彼自身の型破りな徹底的調査こそが決定的なイベントであるということ。
もうひとつは、彼に「場所」という概念が想起されたことです。これによって、芸術に対する理解を推し進めるためのひとつの視点です。
これらはゆくゆく彼自身の大きな財産となりました。

アンドレにとって、未加工の工業的素材であろうと、ことば(単語)であろうと、作品の構成要素であることには変わりありません。それを組み合わせて構築することで、前者では物質的な彫刻作品、後者であれば観念的な彫刻(=詩)作品を生み出していきました。
それゆえ、彫刻制作と詩の執筆活動は拮抗することなく、並行して進めていくことができたのでしょう。それぞれの創作は独立しながらも、アンドレというアーティストを成り立たせるうえで分かち難く結合しています。

Carl Andre: Sculpture as Place 1958-2010
(Author: Yasmil Raymond and Philippe Vergne)
Dia Art Foundation
400 pages
Hardback
216 x 280 mm
German
ISBN: 9780300191714
2016

6,800円+税
Sorry, SOLD OUT